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第3話
「お前それじゃ寒いだろ」
コートと服を差し出すと、彼は顔をぱあっと輝かせた。
「うわー寒かったんだよ。ありがとう!」
いそいそと着替える姿をぼんやり眺めていると、じろりと睨みつけられた。
「何?言っとくけどまだ痛いからね?」
「馬鹿。俺は今から仕事なんだよ」
視線をそらすと、鏡の前でネクタイをしめる。
「おい、出るぞ」
「あんたの服大きいや」
微妙な表情で自分の姿を見下ろす。しかし、温かさの方が勝ったのか、コートを羽織ると笑顔になった。
「今日も20時?」
「ああ」
ドアのカギをかけながら頷く。
「じゃあ行ってらっしゃい」
ニコニコと笑顔で言われて、慌てて背を向けると、手を上げて答えた。
まずい。にやけてしまう。
家を閉め出して、金も渡していないのに、一緒に暮らしている様な態度をとる彼を、すこしいじらしいと思ってしまった。
何を考えているんだ俺は。
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