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第3話-2

 ササキはふらふらとタクシーから降りると、よろめきながら、なんとかエレベーターのボタンを押す。  くそ。あの野郎。断れないのをいいことに、しこたま飲ませやがって。  ぐるぐるとする視界と頭でエレベーターから降りると、ドアの前に彼がいた。ササキに気づいたのか、怒った顔をしながら駆け寄ってくる。 「遅いよー!……って、呑んできたの?」  ササキの体を支えながら、ドアの前まで引きずると、持っていた鍵を奪い取って開けた。  むすっとしている彼の顔を横目で見て、ため息をつく。 「酒くさい!」 「付き合いだよ。大人にはいろいろあるんだ」 「もしかして、無理やり呑まされたの?」  ササキが黙っていると、怒っていた自分を恥じたのか、しゅんとして俯いた。こういうところが素直だ。思慮は足りないが。 「ごめん。俺のこと忘れて遊んでたのかと思って……」 「ばーか」  そもそも、放り出されても文句は言えないはずだが。  彼はひ弱すぎてササキを支えきれないらしく、最後はずるずると引きずりながら、ベッドに倒れこんだ。力任せにコートを引っ張り、なんとか脱がせようとする。最終的にベッドの上でササキをごろごろと転がして、コートをはぎとった。 「スーツは、無理だよね……」  ササキが目を閉じて黙っていると、玄関に放り出してあった鞄を取りにいった。鞄を抱えてじっと見ている。開けようかと思いながらもためらっているのか、なかなか離さない。ササキは薄く目を開けてそれを見ていた。 まあ、盗るなら今だよな。  しかし結局何もせず、寝室まで鞄を持ってくると、ベッドの横に置く。そしてササキと壁の隙間に寝転んだ。  理解に苦しむ。自分のことを強姦するような男の財布など、躊躇なく盗って逃げればいいのに。世間知らずなのか、馬鹿正直なのか。いや、馬鹿だったな。  ササキは手で顔を覆った。すでに横で寝息をたてている彼に気づかれないように、細く息を吐く。  ああ。  やばいかもしれない。

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