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第4話
ネクタイをしめてコートを羽織り、一緒に出掛ける準備をしている彼に声をかけた。
「お前名前はなんていうんだ?」
彼は顔を上げて、「今更?」と笑った。
「ハルだよ。あんたは?」
「ササキだ」
「苗字かよ」
「ハル」
「なに?」
彼は笑みを浮かべる。もう作り笑いはしなくなっていた。
「お前はここにいろ。俺は仕事にいってくる」
「え!?どうしたの?」
「別に。外は寒いだろ」
理由にもならない理由を告げて、靴を履く。ハルは困ったような顔をして、でもすぐに笑顔になって言った。
「ありがとう。いってらっしゃい」
「ああ」
でも、鍵は渡さない。
「鍵あけたまま外にでるなよ」
ハルは一瞬きょとんとして、うんと頷いた。
ガチャリと鍵を閉めて、彼を閉じ込める。
何かを金に換えて出ていくのなら、それでいい。もう帰ってこないとわかるから。
帰ってくるかどうかわからないのに、待つのは嫌だ。
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