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第5話

 午後の予定が先方の都合でぽっかり空いてしまった。もう帰るかと勝手に決めて、直帰の連絡を入れる。特に何も言われなかったので、ササキはそのまま家に帰ることにした。  玄関のドアの鍵を開ける。  ガチャリと手応えを感じて、安心する。  まだ中にいる。外になんて出さない。この部屋の中では、ハルは俺のものだ。 「ただいま」  返事がない。姿も見えない。瞬間、心臓がぎゅっと潰されたように痺れる。 「おい」  声が震えてしまうのを止められない。その時、寝室の方から物音がした。まだいる。大丈夫。ほっと息を吐いて、寝室の方へ歩み寄った。 「もうちょっと……」  声が聞こえて立ち止まる。もうちょっと?何が?まさか他に人がいるのか?  いや、そんなはずはない。そんなはずは、ない。  ササキは寝室をのぞき込んだ。 「どうし……」  発した言葉は途中で消える。ハルの姿に目を疑った。必死に後ろに手を伸ばし、自慰をしていたのだ。 「何やってるんだ?」  びくりとハルの体が震えた。恐る恐るこちらを振り向く。瞬時に顔を赤らめて布団に潜り込み、体を隠そうとした。 「え……何で……」  おどおどと目が泳ぐ。そっぽを向いてササキと目が合わないように俯いた。  カッと体が熱くなった。ぞくぞくする。 「そんなによかったのか?サルみたいに我慢できなくなるほど」  言いながらハルに近づいていく。 「ち……ちが……」 「何が違うんだ?言えばいいのに。自分じゃうまくできないだろ?手伝ってやるよ」  ハルの肩を強く押して、ベッドに押さえつける。ベルトを外しながら耳元でささやいた。 「入れられて擦られるのは凄くいいらしいぞ」 「や……やめて!違うから!」 「こんなになってるのに何が違うんだ?」  そろりと後ろを撫でると、ハルの体がぶるりと震えた。ずいぶん柔らかくほぐされている。指をいれるだけで、ここまでする必要はない。ササキは歓喜し、ジッパーを下ろした。  ハルの体が俺を欲している。 そんな錯覚を起こすほど、ササキは興奮していた。息が荒くなる。何度も唇を噛んで、舌を入れて、でもじれったくなって指を後ろに這わせた。 「やめて!」  ゆっくりと指を差し入れようとしたら、思い切り蹴飛ばされて、ササキは後ろに手をついた。 「痛いな」  足を掴んで抱え込む。自身のモノを押し付けながら薄く笑った。 「やめてってば!」  今度は手で思い切り後ろに突き飛ばされた。ササキから逃げるようにあとずさり、足を閉じる。 「入れたって痛いだけじゃないか!」  まだそんなことを言っているのか。 「大丈夫。ここまで広がっていれば、そんなに痛くない。触って欲しいんだろ?ちゃんと俺が気持ちよくしてやるから。自分でしなくていい。ほら、入れてやるからこっちに来い」  ササキが手を伸ばすと、その手を思い切り払って、キッとこちらを睨んだ。 「入れて欲しいなんて言ってないでしょ!俺はあんたに入れて欲しいなんて思ったことない!」 「…………」  瞬間ハルはサッと青ざめた。 「あ、ちが……ごめ……」  俺はどんな顔をしていたのだろうか。  手を伸ばしてきたハルを避けるように、立ち上がった。黙ったまま背を向けると、ズボンをずり上げてベルトを締める。そのまま部屋をでていこうとすると、ハルが声を上げた。 「ちょっと待って!ごめんなさい。そんなつもりじゃ……」 「タバコ買ってくる」  遮るようにそう言って外に出た。 一度も振り返らずに。

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