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第5話-2

 近所の公園でぼんやりとベンチに座り、タバコを思い切り吸い込んで煙を吐く。煙とは別のため息が出る。  ぴりりとこめかみが痛んだ。いつものあの声が頭に響く。忌まわしいあの声が。 『男の子は女の子を好きになるものなのよ。おかしなこと言わないで』  うるさい……。 『は?好き?何言ってんの?お前がホモだって噂があったから、からかっただけだよバーカ。キモいんだよ』  うるさい。 『何彼氏面してんの?僕やれれば誰でもよかったんだけど。ウザいからもう連絡してこないで』  うるさい……!  ササキはぐしゃりとタバコの箱を握りつぶし、頭を押さえる。早くなっている呼吸と鼓動を鎮めようと、心臓を殴った。  本心をさらけ出した相手は、俺の心をむしり取り、踏みにじっていった。 後には何も残らない。 だから決めたじゃないか。 これ以上心をなくさないために、誰にも本音をさらさないと。 期待するのをやめようと。  ………………。  ……俺も同じじゃないか。    ぼろぼろに痛めつけて踏みにじった。心も体も。嫌われて当然だ。  ハルが懲りた様子もなく、ササキになついてくるので、勘違いしてしまった。 望まれてなんて、いなかった。  もう一度深くタバコを吸い込むと、ゆっくりと煙を吐きながら、タバコを灰皿に押し付けた。  コンビニで本当にタバコを買うと、家に足を向ける。  またあの部屋に帰るのか。空っぽの部屋に。  一度埋まった穴が再び開くのはとてつもなく痛い。心を熱くさせてしまったから余計に。  自業自得だ。  まさかこんなに好きになるとは思っていなかった。  ため息をついて玄関の鍵を開けると、玄関マットの上にハルが膝を抱えて座っていた。    なんでいるんだよ、こいつ。  ハルはササキを見上げると、涙をにじませながら、足にしがみついた。 「ごめんなさい。ごめんなさい。俺恥ずかしくて……」  ぐしぐしと鼻をすすりながら、震える声でつぶやく。 「あんなこと言うつもりじゃ……」 「…………」  ササキは大きくため息をつくと、ハルの頭を撫でた。 「もういいよ。怒ってるわけじゃない」 「ごめんなさい……」 「飯作るんだ。どけよ」  ハルの体を軽く足で押しのけて部屋に入る。彼はよたよたと後をついてきた。  だからどうして。  お前はそうやって、俺に期待させるんだ。

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