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第8話

「ねー」  缶ビールを渡してやりながら腰をおろすと、ハルがすり寄ってきた。 「俺、家事手伝っていい?」  一瞬缶を開ける手を止めて、ハルの方を見た。 「別にいい。自分でやるから」  むーと唸って缶ビールを煽る。 「このままじゃ俺、ヒモみたいじゃん」 「違うのか?」 「いや、まあ、そうなんだけど……」  困ったように眉をひそめて、ぼそりと呟いた。 「暇なんだよー。この部屋ほんとに何もないし……」  ちらりと上目づかいでこっちを見たが、ササキは知らぬ顔をしてビールをあおった。 「ゲーム買ってやっただろ」 「あんなのもうクリアしちゃったよ」  むすっとふくれて、立てた膝に顔を埋める。 「じゃあ他のを買えばいい」 「え!いいの?」  ぱあっと顔をかがやせて、いそいそとタブレットに手を伸ばす。 「これとねー、あとこれも。……って、うーん。やっぱこれだけで」  迷った挙句に、またよくわからないものを指さす。  遠慮することを覚えたらしい。 「いくつでもいいぞ」  その言葉に、顔を上げると嬉しそうに笑った。 「やったね。ありがとう」  タブレットを押し付けてきて、ササキが購入手続きをしていると、「それでさー」と続けた。 「家事手伝っていい?」  なぜか振り出しに戻った。 「自分でするからいいって」  同じ答えを繰り返す。ササキが額を小突くと、照れたように笑った。 「あんたの役に立ちたいの」  ぶわっと背筋が粟だった。 押し倒しそうになるのをぐっとこらえて、ぼそりと呟く。 「……わかった。じゃあやってくれ」  にやけそうな顔を見られないように、俯く。  ハルはうんうんと頷くと、「ありがとう」と言った。  どうやら、部屋のものを勝手に触るのを躊躇していたらしい。  愛おしすぎて気が狂いそうだ。  手を伸ばして頭をなでると、ハルは照れくさそうにはにかんだ。  もう、やめてくれ。俺を殺す気か。 「風呂はいってくる」  立ち上がると、ハルの方を見ないように風呂場に向かった。  役に立ちたいだなんて。なんてかわいいことを言うんだ。  ササキの中のハルに対する思いが肥大していく。気づかないうちに、破裂しそうな程。

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