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Ⅱ-1
――希 がバイトを変えた。
基本的に長続きする方ではなく、前にやっていたスーパーでのバックヤードの仕事はそれなりに続いたようだがそれも先日辞めてしまい、今は割りの良いバーのバイトを始めた。
時間帯のせいか希は前より良く眠るようになったお陰で俺の身体は幾らか楽になった――。
それでもバイトから深夜に帰って来て、蹴り起こされ、相手することは全然ザラだったが、最高でも2回ヤれば気が済むみたいで、出すだけ出したら大あくびして泥のように眠った――。
希は茅葺 のことがあってから少しだけ変わったと思う――。
安心したのかもしれない。他の男も自分と同じように理性ではどうにもならない性的欲求があることに――。
「え!希くんってまだ21なの?」
常連客の男が驚いて声を漏らした。
「大人っぽいよね、背も高いし。イケメンだし、モテるでしょ??」
「――フツーです」
「出た!フツー!若者あるある!」
カウンターに座った常連の男女客はアルコールも入ってか希の無愛想な返しにもケラケラと笑っていた。希はそれ以上何も話さずテーブル席の客のオーダーを取りに向かう。その顔には相変わらず一切笑顔がない。
「マスター、あの子フリーターなの?」
「いや、学生さん」
「えー、そーなんだ」
「確かN大の法学部とか、なんとか」
「うわ、意外!!法学部なんだぁ!」
「へぇ、頭良いんだねぇ〜」
客たちは謎多き無愛想な学生アルバイトの噂話に夢中のようだった。
トイレのドアを開けると玄関の鍵とチェーンが閉まる音がした。
「――希、おかえり」
俺は返事がないとわかっていても必ずいつも声を掛ける。
「ご飯食べるなら冷蔵庫に入ってるよ」
「――風呂」
「そう?俺、寝るね」
希はなぜかじっと俺を見た。
「え?」と聞くと黙って背を向け、そのまま風呂場へ向かった。
なんだか少しだけ気になったけれど、特に追求せず俺は布団に向かう。
「――やりたきゃ起こすか」
俺はベッドの端に寄っていつものように眠りに就いた。その日は朝までゆっくり眠れた――。
「希、おはよう。ご飯食べる?」
希は機嫌の良い日はほとんどないけれど、休みの朝が一番機嫌が悪い。あんまりにも早く起こすとキレられるのでいつも昼よりは少し早い午前中に声を掛ける。
今日は素直に起きてくれた。反抗期の息子に気を遣う母親はこんな気持ちなんだろうかと余計なことが頭をよぎる。
「希、就活どうするの?」
「多分院に進む」
「そうなんだ……」
ピタリと希が箸を止めてこちらを見た。
「お前、教職だけは就くなよ」
「――うん」
希は――、怪我をした自分を見て見ぬ振りした教師たちも恨んでいる――。
どっちにしろ、こんな長髪の頭では教育実習どころか、教員試験だって受かりはしないだろう。どんな職業に就くとしてもこの髪型ではまず無理だ。
希が友達の家に出かけて行ったので俺は気兼ねなく悠々と掃除機を掛けている。希はよく本を読んでいるので大きな音を嫌う。本棚には溢れるようにジャンルのバラバラな本たちが増えていく。分厚い法律の本もまた増えていた。
――希は将来、何になるんだろうか。法律の仕事に進むのかな――?
俺より頭も良いし、何をやらせても容量が良いから試験の結果が良いのも知っている。
俺たちはいつまでこのままなんだろう――。
社会に出たら別々になるんだろうか――。
「希のいない、世界……?」
希は将来、誰かと幸せになるのかな――、誰かと結婚して、家族を持って――。
希はなんでも多分うまくやるだろう――。
――やれないのはむしろ、俺だ――――。
最後に希としたのはいつだったろうか――?
少し弄っただけで俺は勃起した。手で包んで擦ると久々感じた性的な快感にどこか安堵した。
一人でした経験がなかったから初めてする行為に思春期の子供みたいにドキドキしていた。自分で触っても気持ちが良いのだと不思議な感覚だった。
それでもどこか物足りなくて、希にされるみたいに後ろ側にも手を伸ばす。縁 をさするとゾワゾワと背中が震えた。ゆっくり確かめるように指を中に進めると自分の体温が指に伝わりどきりとした。
その時、外から鍵を開ける音が聞こえて慌ててズボンを引き上げた。ちゃんと拭けなかった場所が気持ち悪くてムズムズした。
すぐにタバコを咥えた希が部屋に入って来た。俺は赤くなった顔を見せたくなくて背中を向けたまま希に「おかえり」と告げた。希はいつものように何も答えなかったがくるりと俺の前に回って来て目の前にしゃがんだ。
「いいのに、別に止 めなくて。フツーの男はオナニーくらいするよ?」
「…………」
「後ろもしちゃう光流 ちゃんは人より上行くけどね」
ニヤリと意地悪く笑って希は立ち上がるとトイレに消えた。俺は情けなくなりながらも慌てるように下半身をティッシュで乱雑に拭った。
結局その夜も希はバイトに出掛け、翌朝になるまで顔を合わすことはなかった。
俺は大学構内の中庭に置かれたベンチに一人で腰掛け深くため息をつく。なんだか酷く疲れているような鬱々とした気分だった。
「――い、ずみさん……」
聞き覚えのある声に囁くように呼ばれハッとする。声の方へ顔を向けると1ヶ月ぶりに見る茅葺 だった。
「茅葺 くん……」
彼は一緒にいた友人に先に行っておいてと声を掛けると俺のそばにゆっくりとやって来た。
「お久しぶりです……」
「うん……久しぶり」
彼はものすごくバツの悪い顔をしていてなんだか可哀想になった。
「色々……、ごめんね」
「いいえ、俺こそ――。元気そうで良かったです。どこも怪我してなさそうだし……」
「うん、ありがとう」
笑って答えると彼は少し黙った。名前をもう一度呼んでみると俺の横に腰掛け真剣な顔でこちらを見据えてきた。
「泉 さんは、あいつのこと幼馴染みって言いましたよね?」
「――希のこと?そうだけど……」
「それ以上の感情って本当に無いんですか?」
彼はそれを今更確かめて一体どうしたいのか、俺は単に不思議だった――。
「さあ……。こんなに長く一緒にいたら、もうよくわからないかな。今まで考えたこともないし――」
少し遠くに視線をやりながら答えると、ふと彼の視線の熱さに気付く。それはもう手遅れだったようで彼の唇はもう俺に触れていた。すぐに肩を押して彼から少し離れる。
「俺なんかに関わらない方が良い――、どんな目に遭ったか覚えてる?」
「忘れられる筈ないよ――」
苦しみを吐き出すように彼は漏らすと俺の頭を強く引き寄せもう一度腕に抱いた。人の温かさに単純に目が眩んだ。その隙にまたキスされて俺は自分の愚かさに心の中で笑った――。
「ダメ、絶対に跡付けないで」
肩口に口付けられて俺は強く彼に叱るように告げた。彼は子犬のようにしょんぼりして「わかった」と鳴いた。
もし跡を残したら俺が希に何をされるか、今の彼なら十二分に知っているだろうから――。
他人の肌に触れるのは久しぶりだった。希とは違う体温の人――。希と違って彼は俺の肩や髪を優しく撫でては愛しそうに口付ける。
初めてだらけのことに酷く心臓が震えた。
「良かった――、身体キレイだね……」
安堵のため息を混ぜた甘い声で彼は囁く。
「今、ずっと放置されてるからね――」
少し驚いたように彼は俺の顔を覗き込んだ。
「じゃあ、すごく溜まってる?」
「――うん」
「正直なんだね」
そう言って笑う彼の顔はとても無邪気で単純に可愛いと思った。思わず俺から彼に口付けてしまった。
彼の熱くなった中心を口いっぱいに含んで強く吸い上げると彼は苦しそうに声を漏らした。その声が腰に響いて俺は更に愛撫を強めた。
「もっ……、マジで、やばい、くそ」
舌で彼自身の先の部分を割るようにグリグリ虐めると彼の身体はビクビクと激しく震えて何度もそこから雫を溢れさせた。滑りのよくなった逞しい雄を頭ごと動かしながらしつこく責めると彼は我慢出来ずに俺の中で達した。口の中いっぱいに彼の味が広がって、俺は自分の中の妙な征服感に気付く。
彼はその大きな手で俺の起き上がったモノを嬉しそうに握って扱いている。気持ちが良い反面、茅葺くんになんてことをさせているのだろうかと後ろめたい気分にもなる。
「ねえ、なんで毛剃ってんの?アイツの趣味?」
彼の言うように俺には陰毛が殆ど生えてない。希以外とこういうことをしないせいでそれが普通でないという事を忘れていた。
「恥ずかしくて……いいっ……て。でも、もうあんまり生えなくて……」
「ナニソレ、可愛いな」
照れたように彼は笑うから俺まで恥ずかしくて思わず赤くなった。
誤魔化すみたいに彼の肩に両手を置き、体重を掛けた。彼の背中がベッドに沈む。
「上?上がいいの?」
「うん」
もうこれ以上彼に主導権を渡すと恥ずかしさで自分がパンクしてしまう気がしたのだ。彼は少し困った顔をしながら「お願いだから瞬殺しないでね」と俺に訴えて来た。
「知らない」と俺は短く告げるとさっさと自分の中に彼の全てを飲み込んだ。彼が短く何度も声を上げていて無意識に彼自身を俺の狭い場所がぎゅうぎゅうと締め付ける。
「ダメってば、泉さんっ、どーなってんの、アンタのここっ」
腰を動かさないまま、俺はそこだけで彼を捕まえたり逃したりする。彼がその度に歯を噛み締めて震えるから何だか楽しくなって顔をじっと眺めていたら拗ねたように睨まれた。
腰を引き寄せられて気を取られていると下から深く貫かれて思ったより大きな声が出た。
「あっ……びっくりした、茅葺くんのですごい奥、当たった、今」
彼はイタズラが成功したような得意げな子供みたいな顔をして笑っていた。自然と唇同士が触れて、奥まで舐め合った。優しい、優しいキス。俺が希と一度もしたことがないようなお互いの気持ちの交換みたいな口付け。彼に口の中を味合われるたび頭の中がクラクラした。
そのまま何度も奥を貫かれもう少しというところで、彼は何か楽しいことを思いついたかのように俺をうつ伏せに寝かせ、獣の交尾みたいに恥ずかしい場所を全部自分に晒させて指で目一杯に広げ、長くて分厚い舌で何度もそこを掻き回して来た。
「やだっ、そんなとこっ、茅葺くっ……、ねぇ、挿れて?早く、茅葺くんの、挿れてよっ」
きっとこう言えば彼は俺に食らいつくと確信していた。望み通り彼は俺の欲しがったモノをすぐに与えてくれた。
焦らされた分敏感になった俺は挿入の刺激だけで達しそうになるのを堪えて、焦らした罰だと言わんばかりに彼を締め付けては奥へ奥へと誘った。彼はずっと必死に抗っていたけれど俺より先に果てて、悔しそうに声を漏らした。
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