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Ⅲ-2
鍵が開いたままのドアを外からゆっくり開く。少し開けただけで中から漂うタバコの臭いが鼻をついた。
「ただいま」
カーテンも開けずに薄暗い居間でぼんやりとタバコをふかして座る希に泉は声を掛ける。
もちろん返事もなければこちらも見ない――。
換気のために居間と寝室の窓を開け、台所の換気扇を回し、流しの洗い物を手早く片付け、溜まった洗濯物を全部洗濯機にかける。早く横になりたかったので乾燥までの設定にセットした。
居間に戻り、無反応な希に向かって「俺寝るね」とだけ告げた。
居間に続く襖を閉め、寝室のベッドに横になる。昼間なので端には寄らず真ん中に寝た。
ふと、身体からする他人の匂いに気付く。
「服から……、茅葺くんのにおい、する――」
もうここにはいない優しい人の匂いを噛み締めるみたいにトレーナーの襟を掴んで嗅いだ。不思議な気分だった――。
それでなんとなく安心したのか、そのまま泉は眠りについた――。
無機質な音が鼓膜に届いた。
それが何の音かすぐにはわからなかった。
何かが少しずつ顔のそばに近付いてくるのと同時に布が破れる音もする。
ハサミの刃が動く音だとわかり泉は悪夢から覚めたようにパッと目を見開く。
目を開けると自分に体重は掛けないよう希が馬乗りになっていた。
その手に持たれた大きなハサミの刃が泉のトレーナーの裾から上に向かって真っ直ぐ入り、すでに泉の喉元まで刃先は迫っていた。少しでも動けば刺さりそうにそれは近い。
泉は動揺する様子も見せぬまま希の顔をじっと眺めた。希もいつもの無表情を変えない。
「希――」
ハサミの刃にわざと顎の皮が当たるように泉は少し動いてみせた。ゆっくりと瞼を閉じ、そのまま続ける。
「希は――俺を殺したい? ――それとも……」
――アイシタイ?
泉はふっと目を開き、もう一度希を見上げた。
「希――キスしてよ」
希はやはり無反応のままだったが泉はもう一度「してよ」と迫った。
ゆっくりと希が近付き唇同士が触れ合うとすぐ、希は乱暴に口の中を攻めた。希の舌が時々傷に当たって痛むが泉は気にも止めず舌を絡めていく。
ハサミが無機物特有の音を立ててベッドの足元へ落ちた。
空いた両の手で希は泉を抱きとめた。希にしては珍しい行動だったが、応えるように泉も腕を回す。
前がはだけたトレーナーを希に剥がされ、やり返すように泉は希の着ていたシャツを乱暴に剥いだ。
服を脱ぐために離れてはすぐに戻り、何度も口付けた。こんなに何度も立て続けにキスしたのは多分初めてだった。そのせいか二人はやけに興奮していて、珍しく希が苦しげな声を漏らした。
泉は自分が猫や犬にでもなったように、息を切らす希の顔中を舐めた。そのまま喉元に甘く噛みつき、胸の尖った場所を舌で嬲り、腹筋に沿って下がると完全に起き上がった性器の先まで伝い、舌を這わせた。短く希が悲鳴を上げると、その声に泉の雄もピクリと反応した。
手で擦りながら先端を舐め、口に含んで吸い上げると、中にいつもの味が広がり、泉から自然に笑みが零れる。
先端のくびれた部分までを口の中に含ませたまま、枕元に色気なく投げられてあるいつものジェルに手を伸ばし、希の性器に塗りたくる。
「おいっ、ふざけんな!」
自分に塗られるのをひどく嫌がることを知っていて泉はわざとそうした。
そして、それ以上文句を言わせないかのようにその口をキスで塞ぐ。
向き合って座っている希に自らがのし掛かり、中に希自身を飲み込んだ。
今朝、茅葺に貫かれたばかりでその場所はすぐ柔らかに開いた。ズブズブと深く、ジェルがぬめり卑猥な音をたてながら奥までしっかりと希を飲み込む。
愉悦に似た嬌声を上げながら泉は細い腰を乱暴に回すが、痛みのせいでうまく動かせないでいた。
「いやっ、ねえ、希もっと――動いてよっ」
「お前がっ、もう、動いてんだろっ」
「いやっ!」
聞き分けのない子供のように泉は何度もせがむ。その卑猥に動く腰を引き寄せ、希はさらに奥へと進んだ。一層大きな声が泉から響く。
「希ッ、奥……深いっ、ああっ」
「馬鹿っ、締め付けんなっ! 痛えっ」
「いや、いやっ、そこもっとして、擦って」
「しがみつくな! 出来ねーんだよ! バカ!!」
希は加減なしにバシリと泉の頭を前からはたいた。必然的に背中から泉はベッドに倒れる。半分抜けかけた場所を追いかけるように希が上からかぶさる。
「ああっ! あっ!」
何度も強く奥まで穿ち、右手で荒っぽく泉の硬くなった性器を扱くと繋がった場所がその前へ与えられた快感に合わせるように締め付ける。
前も後ろも泉を攻めて、どこまでも追い詰める。
泉はかぶりを振りながら何度も鳴き、その目からは無意識のうちに涙が流れている。
「イくっ、ああっ! もう、出るっ」
まだ離すつもりのない希は泉の性器の根元から強く握り最後を迎えさせない。
「あっ、痛ッ……、もう、無理っ、無理っ……あああっ!」
一際大きな声をあげてすぐに、泉の喉から乾いた空気だけが掠れて漏れると繋がった場所はひどく戦慄き吸い付いた。その刺激に希は思わず小さく呻いた。
希が身体を離すと泉は短く切なげに鳴いた。繋がっていた場所からは希が中で吐き出したものが震えるたびにぬるぬると溢れていた。
赤く染めた薄い胸を上下させながら泉は何度も押し寄せる快感に腰を痙攣させていた。胸の尖りを噛まれて細い腰が敏感に跳ねた。
「のぞみっ……」湿った吐息で泉は誘う。
揶揄うように希は指で泉の濡れた場所を広げてニタリと笑った。
「もう一回、ここに突っ込んで欲しいんだろ?」
「…………うん」
すぐに欲しがったものを与えられ、満足そうに泉は微笑む。一気に奥まで貫かれ、泉の全身には電気が走ったような痺れが走る。
うわ言のように何度も希の名を呼んでは繰り返し襲ってくる堪え難い快感に泉は喉が枯れるほど鳴き続けた。
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