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第5話
* * *
落ち着いたタクローに、大丈夫かと壮太は声をかけた。タクローはコクリとうなずき、モジモジしながら起き上がった。ペタンとベッドに座ったタクローの目は、ウサギのように真っ赤になっている。まだ涙がたくさんたまっている瞳に、壮太の心はひりついた。
ズッと鼻をすすったタクローに、壮太はティッシュの箱を渡した。ペコリと頭を下げたタクローが、鼻をかむ。
しばらく無言で、見合いの席みたいに向かい合って座っていた。しばらくして、タクローが「申し訳ない」と手をついて頭を下げる。
「なんで、あやまるんだよ。べつになんも、悪いことはしていないだろ」
「いいや。私は、壮太の望みをかなえるために、ここにきた。それなのに、壮太の問いに答えられず、気を遣わせてしまったんだ。ふがいなくて、申し訳ない」
「そんなの、気にすることないって。だれだって、イヤなことはあるしさ。いくら俺の願いをかなえるためっていっても、無理はしなくていいだろう。――それより、俺のほうこそゴメンな」
膝に手を乗せて、壮太も頭を下げた。
「調子にのって、いろんなことしちゃってさ。なんか、エロ漫画みたいな状況だなって思ったら、たのしくなってきちゃってさ。タクローの反応、かわいかったし」
ぼそりと付け加えれば、目玉がこぼれるんじゃないかと心配になるくらい、タクローが目を見開いた。
「え」
「ああ、いや……うん。エロい顔のタクロー、かわいいなって。もっとそういう顔を見たいなって思って。そんで、意地の悪いことをしたっていうか、イヤよイヤよも好きのうち、みたいなもんだと思ったっていうか、なんていうか」
こんな勘違いをして調子に乗ってしまうから、いまだに彼女いない歴を年齢とともに更新中なんだなぁと、壮太はシュンとした。
「壮太」
感動を含んだ声音で呼ばれて、壮太はヘラリと情けなく表情を崩した。
「俺さ、童貞なんだよ」
首に手を当てて、壮太は恥ずかしそうに告白した。
「だから、なんつうの? エロ漫画とか、ビデオとか、そういうのでしか、こういうことを知らなくってさ。知識っつうか、妄想だけはめちゃくちゃあるんだよな。そんで、それみたいなことができるって、頭ンなかの妄想を引き出して、いろいろしちゃってさ。まあ、漫画は現実じゃないんだから、読む側の都合のいいようになってるんだって、わかってはいるんだけどさ。でもなんか……なんつうか、うまく言えないんだけど、なんて言ったらいいのかな」
うーんとうなった壮太に、タクローがガバリと抱きつく。というか、壮太を腕のなかに包んだ。
「おわっ、なんだよ」
「壮太ぁ」
ギュウッと腕に力を込めたタクローが、涙声になる。
「ぅぐっ、く、苦しい……苦しいって、タクロー」
壮太が力強い二の腕を叩くと、タクローはあわてて腕の力をゆるめた。
「どうしたんだよ、急に」
「私の不出来を、そんなふうになぐさめてくれるなんて」
うるうると瞳を揺らすタクローに、壮太は苦笑した。
「べつに、不出来でもなんでもねぇって。タクローは、よくがんばってたって。こんな俺の好きなようにされてさ。道具もがんばって呑み込んで……って、ええと、いまさらだけどさ。はじめて、じゃ……ない、よ、な?」
おそるおそる壮太が問うと、タクローは耳どころか首まで真っ赤になってしまった。
「えっ、えっ?! まさか、はじ……めて」
視線を泳がせながら、タクローがちいさくうなずく。
「まじかー!」
頭を抱えて叫んだ壮太は、タクローの頭を抱きしめた。
「ゴメンな、ゴメン。ほんっと、ゴメン!」
知らなかったとはいえ、初体験がこれではあまりにもひどい。それをした自分を責める壮太の背に、タクローの腕がまわった。
「壮太があやまる必要はない。すべて、私の望んだことなのだから」
「違うだろ。俺が神社で欲望まる出しな願いごとをしたから、それをかなえてこいってタクローは言われたんだろ?」
「違うよ」
「違う?」
「私が、みずからここに来たんだ」
目をパチクリさせて、壮太は腕の中のタクローを見た。はにかみながら、タクローが視線を上げる。いじらしい表情に、壮太は鼻の穴をふくらませた。壮太はすっかり、自分よりも体格のいいマッチョな美男子が、かわいくてしかたがなくなっている。
「いろいろと、壮太の願いとは違っているって、わかっているんだ。だからこそ、その差を埋めたくて……壮太の好きにされようと、望まれるままに行動しようと思ってはいるんだけれど。慣れないことは、うまくいかないものだね」
はは、と眉を下げて笑うタクローの頬を、壮太はガシッと掴んだ。彼女いない歴イコール年齢の壮太は、キスだってマトモにしたことがない。ロマンチックなキスなんてできるはずもなく、タクローをにらみつけながら顔を近づけ、おそるおそる唇を押しつけた。
(うわっ、やわらかい)
ぷにっとした感触に、壮太は動揺した。男の唇は、もっと薄くてガサガサしているもんだと思っていた。それなのにタクローの唇は、厚くはないがやわらかく、艶やかだった。
「壮太」
柔和な笑みをタクローが浮かべる。つられて壮太も笑顔になった。心のなかがあたたかい。
股間のたぎりとは違う、やさしい興奮を覚えた壮太は、もう一度キスをした。こんどはゆっくり唇を重ねて、何度かついばんでみる。タクローが目を閉じたので、舌を伸ばしてみた。ぎこちなく動く壮太の舌に、タクローの舌が絡まる。
緊張で動きが硬くなってしまったキスは、それでも壮太にとっては最高のものだった。
「は、ぁ」
唇を離して壮太が息をつくと、タクローは目をキラキラさせて壮太の手を握った。
「ありがとう、壮太」
別れの言葉に聞こえて、壮太はタクローの手を握り返した。
「まだ、終わりじゃない。なあ、タクロー。イヤじゃなかったら……俺の童貞、もらってくれないか?」
こういうのは女の子が、はじめてをあげたい、とかなんとか言うものだと壮太は思っている。だけど壮太は男だし、タクローに抱かれたいわけではなく、抱きたいのだ。だったらこういう言い方しかできない。タクローのはじめてが欲しいと言うのは、先に道具を突っ込んでしまったので言いづらかった。
「私で、いいのかい?」
おそるおそる聞くタクローに、壮太はきっぱりとうなずいた。
「タクローがいいんだ」
ほころんだタクローの表情を、壮太は花が咲いたみたいだと思った。可憐なんて言葉とは対極の位置にある体格の持ち主を、そう感じてしまうなんて相当おかしくなっている。自覚しつつも、壮太はとてもうれしかった。
タクローがかわいくて、ものすごくしあわせだ。
「私も、壮太にされたい」
うつぶせになろうとするタクローを、壮太は「違う、違う」と止めた。
「あおむけがいいんだ。タクローがイヤじゃないなら、顔をみながら……したい」
緊張に喉をこわばらせた壮太の願いは、照れくさそうに下唇を噛んだタクローに受け入れられた。
あおむけになったタクローが、ドキドキしていると体中であらわしながら両手を広げる。
「壮太」
「うん」
腕のなかに包まれて、壮太はタクローの脚の間に腰を進めた。といっても、どうやってタクローに入れればいいのか。壮太は腰を揺らして、硬くなった息子の先で入る場所を探した。タクローが脚を壮太の腰に絡めて、場所を示す。ツンッと息子の先がすぼまりを見つけて、壮太はゴクリと喉仏を動かした。
「は、入るぞ」
「ああ……壮太」
下腹に気合を入れて、壮太は息子をタクローに沈めた。
「ぅ、く……っ」
「痛いのか」
「へ、いき……だ」
あの道具が入ったのだから、俺の息子も入るはずだと、壮太は慎重に自分を押し込む。傘の張り出しが入り口に呑み込まれて、キュッとすがりつかれると、それだけでイキそうなほど気持ちがよかった。
「は、ぁ……タクロー、すごい、気持ちいい」
「んっ、もっと……ぜんぶ……遠慮しなくていい、から」
切れ切れに誘われて、壮太は感動した。よしっと気合を入れて、タクローの腰を掴むと根元まで一気に埋め込んだ。
「ふんっ!」
「んぁあっ! か、はぁっ、ぅ、ううっ」
首をおおきくのけぞらせたタクローに、壮太はビックリした。
「だ、大丈夫か? 痛かったのか」
「ち、が……っ」
「苦しいんだな? すぐ、抜くから」
「いい……っ、壮太」
ガシッと力強く二の腕を掴んで止められ、壮太は眉根を寄せた。
「無理すんなよ」
「無理……は、していない……壮太……っ、で、いっぱいだから……ちょっと、息が詰まって……でも、もう、平気だから」
いじらしい答えと無理して作られた笑顔に、壮太はクラクラした。愛しさが頭の先を突き抜けて、心臓が爆発しそうだ。
「タクロー!」
「ああっ」
もう我慢できないと、壮太は思いの丈をガンガンぶつけた。全力でタクローを突き上げる壮太の鼓膜を、タクローの淫靡な悲鳴が叩く。甘くせつない嬌声に劣情をあおられた壮太は、夢中になってタクローの内側をかき乱した。
「はっ、はっ、タクロー……っ、タクロー」
「ひぁあっ、あっ、は、ぁあっ、はんっ、は、はぁぅうんっ、壮太っ、そぉたぁ……っ!」
はじめての挿入の圧迫は、壮太には刺激が強すぎた。あっけなく絶頂を迎えた壮太は汗をにじませ、息を切らしてタクローのやわらかな胸筋に倒れ込む。
「ふ、ぅ」
タクローの指が、壮太の髪をやさしく撫でた。気持ちがよくて、壮太はそのまま目を閉じる。
「タクロー」
満ち足りた心地で、壮太はギュッとタクローを抱きしめた。
「はー」
うっとりと息を吐いて、ふかふかの雄っぱいの谷間に顔を擦りつける。しっとりと汗ばんだ肌が吸いつく感触は心地いい。
「クリスマスのプレゼントなんだから、タクローはもうずっと、俺のもんなんだよな」
「えっ」
「ん?」
ギクリとしたタクローの、汗ばむ肌から壮太は顔を上げた。
「なんだよ。違うのかよ」
「ええと……それは、壮太はずっと私といてくれる、ということなのかな?」
「まあ、そうなるな」
「つまり、私に取り憑かれてもいい……と?」
「取り憑くって。妖怪とか悪魔とかじゃないんだし」
笑い飛ばした壮太は、真剣な顔のタクローに笑いを引っこめた。
「タクロー?」
「私は、ある神の分社なんだ」
「ぶんしゃ?」
「御霊を分けて、祀られる、ということだよ」
「ふうん?」
よくわからないままに、壮太はうなずいた。
タクローはポツポツと、分社の依り代である鏡が、自分の本体であること。鏡を通して本体に人の願いが送られること。いつしか鏡であるタクローに意志が宿り、伝達係のような状態になっていたこと。そしてタクローの宿る鏡が祀られている神社は、マンション建設のために取り壊されることが決まっていると語った。
「それが、壮太が祈った神社なんだ」
さみしい笑みを浮かべたタクローの胸に顎を乗せて、壮太は「ふうん」と返事した。
「管理者が遠くに引っ越して、ずっと放置されていたんだ。もともとあのあたりの土地を持っていた人間が、分社として作った神社で、その人間がいなくなれば世話をするものもいなくなる。荒れた神社に来る人間は珍しい。――訪れるものもいなくなっていた私のところに、ひさしぶりに訪れた人間が、壮太だったんだよ」
「へえ」
そうだったのかと、壮太は身じろぎした。繋がったままの箇所が擦れて、ヒクッとタクローが反応する。締めつけられて、壮太はうめいた。精を吐き出して、やわらかくなっていた息子が、ゆっくりと熱を取り戻していく。
「うれしかった。壮太はいろいろと話しかけてくれたし、ときどき供え物もしてくれた。役目を終えて消える日を待つだけだった私は、最後に壮太の願いをかなえたくなったんだ。望みどおりにはできないと、わかっていたよ。それでも……壮太にお礼がしたかったんだ」
「礼だなんて」
壮太はタクローの胸筋に手を乗せて、体を起こした。ムニッとした感触が気持ちいい。もっと揉んでいたいと感じる手触りを堪能しながら、壮太は真剣な顔で言った。
「感謝をするのは、俺のほうだ。大学に入って、知らない土地でひとり暮らしをはじめて、話し相手が欲しかったんだ。そんなとき、神社を見つけて……一方的にしゃべっていただけで」
それでも心はとても軽くなったと、壮太はほほえむ。指を雄っぱいに沈めた壮太は、タクローにキスをした。
「さみしさとか不安とか、あそこに行くとなぐさめられた。だれかがいる気がしていたんだ。あれは、タクローだったんだな」
目じりをなごませたタクローの表情に、壮太は覚悟を固めた。
「よくわかんないけどさ。鏡が本体って、あれだろ? 付喪神とか、なんかそんなやつってことなんだよな。だったら、神社が壊される前に、鏡をここに持ってくればいいってことだろ。そうしたら、タクローはずっとここにいられるんだよな」
ためらいながら、タクローは首肯した。
「なら、そうする」
「しかし、私は壮太の望んだものではないよ。壮太は女性がよかったんだろう?」
「そりゃあ、まあ……そうだけどさ。でも、ムチムチのナイスバディではあるし、味噌汁も煮物もうまかったし、掃除だってきっちりしてくれたしさ。なにより、めちゃくちゃエロかわいいから問題ないって」
タクローを安心させたくて、壮太はニッと歯を見せた。
「まだまだ、俺の欲望は尽きないんだ。もっともっとタクローにいろんなことをしたい。これも、もっと揉んで堪能したいし」
「あっ……ん」
雄っぱいを揉みながら乳首を刺激して、壮太はニヤニヤした。
「もっとエロい顔が見たい。タクローがイヤじゃなければ、だけど」
腕で口元を隠したタクローは、ゆでだこのようになりながら「うれしい」とつぶやいた。
「もしも本当に、私に憑かれる覚悟があるのなら、神社から私の本体を盗み出してほしい」
「うん」
「来なくても、恨んだりはしないから……安心してくれ」
「なんでそんなことを言うんだよ」
ムッとした壮太は、まだ半勃ちの息子でタクローの内側を擦った。甘い声がタクローの口から洩れる。
「俺を信じろよ。約束する。かならずタクローの本体を、神社から救い出すから……だから、そんなこと言うな」
「壮太……ありがとう」
あきらめを含んだタクローの笑顔がさみしくて、壮太はやるせなくなった。それを振り切るために、タクローのやわらかな胸筋を揉みしだき、首筋にむしゃぶりついて腰を乱暴に打ちつける。
「んはっ、ぁ、ああ……壮太ぁ、あ……は、はぅうっ、はんっ、は、はひゅっ、ぁんうう」
髪を振り乱してもだえるタクローのあられもない姿に、壮太はますます興奮し、絶頂を迎えて弛緩した息子を叱咤して精の続く限り働かせた。ローションと壮太の精が混ざりあい、泡立ってタクローの狭い口からこぼれ出る。ヒクヒクと痙攣するタクローの内壁は壮太にすがり、果てた壮太を幾度も元気に復活させた。
「タクロー……っ」
「ああっ、壮太……はふぅうっ、あっ、も、ぁあ……んぁっ、あ、はぁうぅううんっ」
甘くせつない悲鳴を上げて、何度も後ろでイカされたタクローが最後の声を響かせる。ありったけの精を絞り出した壮太は、恍惚に目を細めてタクローの胸筋に倒れ込んだ。フルマラソンを完走したような爽快な気分になりつつ、気だるい充足に包まれた壮太はタクローの顎にキスをして目を閉じる。
「タクロー」
「壮太……ありがとう」
吐息まじりの、かすかな感謝の声にほほえんで、壮太は意識を手放した。
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