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第162話

しばらくして個室のドアが開いた。奈緒が目元を赤くして立っていて泣いたことがわかる。 「あの、命さんも…」 「ああ」 部屋に入ると茉美が俺を見てからすぐに頭を下げた。 「ごめんなさい」 「何が。」 「貴方のこと、刺したりして…」 「それはもういい、気にするな。…奈緒から話は聞いたか?」 「…これからのこと…よね…」 切な気に目を閉じてゆっくり開けた茉美は今度は微笑んでから頭を下げる。 「よろしくお願いします」 「わかった」 茉美も奈緒も二人で暮らすことを決めたんだ。俺も二人をちゃんとサポートしていかないといけない。 「とりあえず、茉美が退院するまで奈緒は浅羽で面倒見とく」 「お願いします」 柔らかく微笑む茉美の顔は、芦屋にいたときよりも随分良いものになった。 茉美と奈緒のことが決まって浅羽に帰り奈緒と別れると早河のことを思い出してイライラしだした。 けれどいつまでも逃げてちゃ俺があいつを怖がってるみたいになるから、幹部室に堂々と入ってやろうと部屋に向かう。 「───みっちゃーーん!」 「うわっ!?」 「どこ行ってたのー?」 背中にどんと乗ってきた赤石のせいでバランスを崩して膝をつきそうになった。壁に手をついてそれを回避してから、赤石の方を振り返り睨み付ける。 「怖い顔しちゃってぇ。」 「いきなり飛び乗ってくるのはやめろ」 「うーん、努力するね!」 にこにこ笑う赤石、眩しい金髪がゆらゆら揺れてうざったい。 「お前赤石なんだから髪赤くしろよ」 「鳥居と被っちゃうからやだ」 そんな下らない会話をしているとすぐに幹部室について、何だか緊張してきた。 俺の緊張なんて知ったこっちゃない赤石はドアを開けて中に入っていく。俺も変に思われないように普通に中に入ると早河はいなくて…… 「むかつくっ!!」 「いたぁっ!!!」 赤石の背中をバシッと叩くと何事かと驚いて俺を訝しげに見てくる。その視線を無視してるとヘラヘラ笑って俺の肩にポンと手を置いてきた。 「もぅ!みっちゃん俺のこと大好きなんだからぁ!」 「………………」 「え?無視なの?」 早河は親父のところにでも行ってるのだろうか、早退は…ないな。あいつが自らそんなことするわけがない。部屋にいた八田も中尾も何も言わないということは親父の部屋にいる可能性が一番高いかな。 「みっちゃんみっちゃん!これどうしたらいいの?俺仕事とか普段やらないからわかんない!」 珍しくやる気な赤石。なのにやり方がわかんないらしい。が、それはお前が今まで真面目にしてこなかったからであって……そんな胸を張って言うことじゃない。 「後で教えるから……俺はちょっと休憩」 「みっちゃん休憩するの!?じゃあ俺も~!」 「赤石っ!!テメェはちゃんと仕事しやがれ」 「八田ちゃんには関係ないでしょっ!」 俺が寝転ぶソファーの対に寝転んだ赤石は八田に怒られても蹴られても気にせずにニコニコとうざったいくらいに笑っていた。

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