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第169話
売店で売ってるアイスを食べるとユキはあっという間に元気になった。
イルカを見に行くんだとコーナーに向かう。当たり前だけど平日のこんな時間にユキと同じくらいの年の子供はここにいない。いるのは小さい子供を抱えた母親と父親やお年寄り。
ユキはさっきからキョロキョロと子供と母親が笑う姿を見ては悲しそうな顔をした。
「ユキ…」
「なぁに…?」
「母さんがいいか?」
「!」
肩をあげて目を見開いたユキにできるだけ優しく笑って見せる。
俺はユキの母親よりユキを見ている自信があった、なのにやっぱり母親という存在そのものの方が強いみたいだ。
負けてるのかと思うと苛つく。それは自分自身にも、ユキの母親にも、少しだけユキにも。
「命…?」
「ん?」
「僕…ちょっとだけ、羨ましい。お母さん、僕に笑ってくれないから、あの子が羨ましいの…」
笑いあってる母と子供の姿。どうして自分はこうなのにってユキが思っていたのだとわかった途端、胸が苦しくなる。
「ごめん」
「…命、何で謝るの…?」
「いや…。よし、この話は終わりな、イルカ見に行くんだろ?」
「うん!」
けれどきっと、ユキの方が苦しいはず。
イルカのコーナーに来て、イルカが泳いでる姿を見ると「僕も!!」とはしゃぎだしたユキ。突然服を脱ごうとして慌てて止め、見るだけだと注意する。
「…イルカさん、大きいねぇ」
「そうだなぁ」
「僕、イルカさん好き!」
ガラスに手を付いてそのまま顔だけ後ろに振り返り俺を見て笑ったユキの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「イルカのぬいぐるみ買うか?」
「ぬいぐるみ…!ほしい…!」
体ごと振り返ったユキはそのまま俺に飛び付いてきて、よしよしと撫でてやるとそのまま俺から離れなくなった。
「ユキ?」
「んー…ふふっ」
「なーに笑ってんだよ」
「あのね…いっぱい、いっぱい、楽しいの…!」
そう言って俺のことをユキにしたら強い力でぎゅーっとされる。
「ユキ、他にもまだまだあるから、見に行こう」
「うん!」
手を繋いで建物の中をゆっくりと歩いた。
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