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第176話
***
「───早くねえか」
「おはよ」
「…早河さん、おはよう、ございます!」
翌日の午前9時、早河の家を訪ねるといつもみたいにシャキシャキとしていない早河がいた。普通の強面のお兄さんみたいな。
「…ユキくんおはよう。悪い、八神まだ寝てる」
ユキの髪をくしゃくしゃ撫でながらそう言う早河。お前も起きたばっかりだな、目が眠たそう。
「入って適当にしててくれ」
「おう、お邪魔します」
「おじゃま、します…」
わせわせ靴を脱ぐユキに「ゆっくりでいいんだぞ」と伝えると不安そうな悲しそうな、なんとも言えない表情が返ってきた。
「…僕、早くできる……」
「そうか」
早河はそんな俺たちのやり取りをみてクスッと笑ってからどこかの部屋に消えていった。
少しして靴を脱げたユキと一緒にリビングの方に行ってソファーに腰かける。ユキは俺の隣に座って落ち着きがないみたいでキョロキョロと部屋を見回したり……前にここで過ごしたくせに何がそんなに気になるのか。
「どうした?」
「…お友達、どこぉ…?」
「まだ寝てるって」
「お寝坊さん…?」
「さぁ」
そうしてると向こうから「痛ぁっ!」って声が聞こえてきた。今のは八神の声だろう、早河が八神を起こしにいってるみたいだ。
「命、命、今のお友達……?」
「そうだな」
ユキは俺の腕にしがみつくように寄ってきて可愛い。上を向いて俺を見てくるその顔、頬にキスを落とすと目を見開いて額を腕にスリスリと擦り付けてきた。
「何~?お客さん来とるん?俺出てええの?」
「いいからそのだらしねえ顔やめろ」
「俺の寝起きの顔もかわええやろ」
「さっさと顔洗いに行け」
そんな会話が聞こえてきてユキは突然背筋を伸ばして俺の腕から離れた。
「命もユキくんも悪いな。命はコーヒーでいいだろ、ユキくんは…お茶でもいいかな?ジュースとかねえんだ」
「僕、お茶!早河さん、ありがとうございます」
ソファーからわざわざ降りて早河に頭を下げるユキに早河が「いいんだよ」と頭を撫でる。
「おはよーございまぁす」
そんなとき敬礼のポーズでリビングに来た八神。
「初めまして、八神琴音です」
「琴音、くん……こと、琴くん…」
「そーやで、琴くんやで、君は?」
「僕、ユキ…」
「ユキくんかぁ、よろしくね~。お兄さんは?」
八神とユキが握手をしてから俺に目を向けた。
「黒沼命」
「命さんか!よろしくお願いしますー!」
寝起きの癖にハイテンションな八神、正直うるさい。
「何しに来たんだ?」
ユキと八神が向こうで遊んでるなか俺と早河はボケーっと話をしていた。
「いや?昨日一昨日は外に行ってたし今日は家かなって思ったんだけど、それじゃあユキがつまんねえだろうし……」
「で、俺の家か。」
「ついでに八神も見たかったし?」
ふぅと息を吐いた早河はそうかよ、とソファーに深く座り直した。
「へぇ、ユキくん14歳なんや?」
「うん!僕、お兄さんなの!」
「そやなぁ、立派なお兄さんや」
向かい合って床に座ってるユキと八神はそんな会話をして楽しそうにしている。
「……八神、思ってたよりいい奴だな」
正直子供とか嫌いなんじゃないか。何て思ってたりしてた。
「まあ、あれでも学校の生徒をまとめてるリーダーらしいし」
「へぇ、リーダーなぁ」
「今はそんな風に見えねえだろうけど、表に出たら成る程なって思うところはある」
「…ちょっと興味あるな、それ」
ここでああやって優しくふわふわ笑ってる八神が表ではどんな顔をするのだろう。ユキと八神の方をじーっとみてると視線に気づいた八神が俺にヘラっと笑った。
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