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第179話
気分よく組に来た。なのに。
「みっちゃん!おはよー!」
「ちょ、黒沼邪魔だって!!」
幹部室に入った途端赤石に抱きつかれ、バランスを崩して膝をついた俺に中尾が邪魔だと声を浴びせ、極め付きは
「遅刻だ」
と早河の低い声と
「今日は俺の仕事も手伝ってもらうからな」
と八田の楽しそうな声。
「お前ら朝からうるせえよ」
ついつい本音が出て。とりあえず俺に抱きついている赤石を離して中尾に道を開けてからソファーにどかっと座った。
「仕事ってなんだ」
「あん?お前これ持ってるくせにわかんねえのか?」
これ、と言われたのは拳銃。
手に持っているそれを強く握った。
「……誰を」
「逆らう奴等を」
今からは誰かと話し合いか何かをするんだろう。それに相手が同意しなかったら撃って、同意したなら生きれる。といった感じだろうか。
そんな仕事なら赤石がやってくれたらいいのに、あいつは仕事になると冷たくなる、相手に情なんて沸かないと昔一緒に仕事をしたとき言ってたから。
浅羽組の地下、そこに囚われている奴等たち。コツコツと音をならし階段を下る。そこは暗いのとなんとも言えない臭い。少し吐き気がした。
ジャラっと嫌な音がする。音のもとに歩いていくと二人の男が血を流しながら地面に倒れていた。
「起きろ」
声と一緒に八田が軽く倒れている金髪の男の頭を蹴った。小さく呻いたその男は伏せていた顔をゆっくりとこちらに向ける。
「お前も起きろ」
もう一人の黒髪の男のことも軽く蹴り起こすと八田はしゃがんでそいつらに冷たく話しかけた。
「前の話の続きだ。さっさと話せ」
「……なあ、俺その話聞いてねえんだけど」
「後で話すから黙ってろよ」
そーですか。壁に背中をつけて三人の様子を眺める。金髪の男はぼそぼそと八田と話をしているが黒髪の男は俺をギロッと鋭い目で見てきて何だよと睨み返した。
「おい、お前にも聞いてんだよ」
八田が黒髪の男の髪を掴んで顔を上にあげさせる、顔を歪めた男はそれでも八田を睨んで、八田はそれが気に食わなかったようでそのまま地面に勢いよく、押さえつけるように落とした。
「…グッ…ぁ」
「生意気は面してんじゃねえよ。お前のこと調べたが……まだまだガキだろ?死にたくねえだろ?さっさと話せ」
「…うる…さ…」
「殺すぞ」
銃を持った手をヒラヒラと男の前で揺らして見せる八田。ため息を吐いて俺は八田からそいつをもらって壁に寄りかからせ座らせた。
「お前なんでそんなに反抗的なの。そのままじゃ死ぬってことわかってんだろ?」
「……………」
「死にてえの?」
「……んなわけねえだろ」
そいつの声は震えていて多少はビビってるのだろうか、荒い息を吐いて俺を睨み続けるそいつ。
「じゃあ何で話さねえんだよ。話したら生かしてやるって言ってんだぞ?」
「……んぐっ」
「は?おい!?」
「…う…げぇッッ…!」
鼻を刺激するきつい臭いが広がる。男はフラッと揺れて横に倒れた。
「おい命、そいつ…」
「すげー熱ある」
「……はぁ、とりあえず片付けるぞ」
小刻みに震え続けてるそいつを抱き上げて部屋の隅にやる、八田が携帯で部下を呼んで吐瀉物を片付けさせた。
「どうする?」
「今日はもう無理だ。」
「だよなー」
隅にやった男は寒さに耐えようとしてるのか小さくなっている。さすがに可哀想に思えてそいつに近づき声をかける。
「おい、」
「……ん…っ」
「何泣いてんだよ」
男の目から涙が零れて俺の手を濡らした。それからさっきみたいな反抗的な目ではなく虚ろな目で俺を見上げてポツポツ話し出す。
「…話したら…きっと、……妹が殺される…」
「ああ」
「…なら、俺が…死んだ方が…いい…」
「………」
「殺して、いいから。」
それを最後に意識を飛ばした男はその後3日ほど目を覚まさなかった。
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