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第186話
***
「命さんっ、茉美ちゃん、茉美ちゃん!」
「わかったから引っ張んなよ」
今日は茉美が退院する日、朝から奈央が迎えにいかないと、と俺の腕を引っ張ってくる。
「茉美ちゃん…お姉ちゃんと暮らせるの楽しみで、つい」
「…そうだよな、じゃあ早く行くか」
「はい!」
車に乗り込んで茉美のいる病院へ。初めはあまり話さなかった奈央は、最近はよく話をしてくれるようになった。今だって茉美と暮らしたらこんなことしたいなんて話をしてくれる。
「着いたぞ」
そう言うと早く車から降りて、病院に駆け込んでいく奈央。俺はゆったりと自分のペースでその後ろを追った。
「茉美ちゃん!」
少し歩いて茉美の部屋に近づくと既に廊下に出てたあいつ。奈央が大きな声で茉美を呼んだ。
「奈央っ」
「茉美ちゃん!」
抱きしめ合う二人は柔らかく笑って。俺に気づいた茉美は一度頭を下げて二人で俺の方に歩いてくる。
「とりあえず買い物してから浅羽に行くぞ。」
「あの、命…?」
「なんだ」
「本当に、よかったのかしら」
これからのことだろうか、不安そうに揺れてる瞳、俺は笑って茉美を見る。
「今更だろ。ほら茉美も奈央も、行くぞ。」
そう言うと目に涙を溜めて、そのくせ嬉しそうに笑った二人は先を歩く俺の隣に走って追い付いた。
女の買い物って長いんじゃなかったっけ?茉美も奈央も俺に気を使っているのか、いつもならもっと長い間なんだろうけど、すごい短時間に買い物を終わらせた。
しかもほんの少しの買い物。金のことも気にしてるのだろうか。
「もういらねえのか?」
「いらないわ、これで十分。ありがとう」
「…そうか。なら浅羽に帰るぞ」
組に帰ると葉月が迎えに来てくれる。葉月に二人を頼んで俺は親父のもとに行き、茉美と奈央が帰ってきたと報告した。
「茉美と話がしてぇな」
「連れてきます」
「それと…あの男の事も色々と決まったから八田とそいつに聞いとけ」
「はい」
部屋を出て茉美のところに行き親父が呼んでいると言うと顔を強ばらせた。
「そんなに緊張するな。大丈夫だから」
「…謝らないと」
茉美は強ばらせた顔のまま親父の部屋に向かい、声をかけて入る。
一番に親父の鋭い目が向いて、けれど茉美は視線を逸らすこと無く、膝をつき頭を額が床につくほど下げた。
「本当に申し訳ありませんでした」
「……もう気にしちゃいねえから頭あげろ。これからは新しい人生を歩くんだろ?そんな顔してたら楽しいもんも楽しくなくなる」
茉美は顔をあげて親父を見つめる。親父はふっと笑って茉美に手を伸ばしそのまま頭を撫でた。
「新しい人生を楽しめ」
「はい」
茉美は泣いてありがとうと感謝の言葉を告げた。
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