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第192話
「可愛いわねえ、あたしもあんな時期があったわぁ。注射嫌!やめて!って先生の手を叩いたことあったもの~!」
「そうかよ」
「インフルエンザの検査とかもね、痛いじゃない?先生の手を叩くなんて毎度よねぇ」
コーヒーを啜りケラケラ話しをするトラ。
「トラ、あのさ」
「なぁに?」
「ユキと、セックスするのはまだまだ早いよなぁ」
「ブッ!……ごめんなさぁい、噴いちゃったわ」
「汚ねぇ」
布巾でそれを拭いて話に戻る。だってさ、この前のこともあって変に意識しちまうし、ユキと風呂入るのもなんか、変な目で見ちまうし。
「ユキくんがいいならいいんじゃないの~?」
「……怖くねえか…?ユキはまだ子供だし」
「ならしない方がいいんじゃない?貴方たち次第よ」
そんなこと、言われてもなぁ。
ずっと胸辺りがモヤモヤする。あんなことがあった日から明らかにため息を吐く数は増えた。
「なんか、切ない…」
「そんな悩むことじゃないわ!ユキくんがしたいって言ったらすればいいの。ユキくんにはちょっと辛いところがあるかもしれないけどねぇ」
考えるのがめんどくさくなって一度目を閉じた。
しばらくして点滴の針を抜き帰っていったトラ。ユキはぐっすり眠っていてその間に…と心配だった茉美に電話を掛けた。
「はい」
「命だ。どうだ新しい生活は」
「命…、何もかもが新鮮で、とっても楽しいわ。ただ料理があんまりできなくて困ってる」
クスクス笑う茉美につられて俺も笑う。今まであんまり料理を作ってこなかったらしいから奈央と試行錯誤してるらしい。
「楽しいならよかった。奈央は?もう学校に行ってんのか?」
「ええ、前と同じようにね。楽しそうに学校に通ってるわ。お友達が沢山いるようで…ちょっと羨ましいの」
「……茉美は学びたいこととかねえの?大学とか…」
「今更勉強なんていいの。それよりアルバイトをしようと思って!社会経験!あたしに一番必要なのはそれよ」
「ハハッ…そうか。」
あまりにも生き生きと話す茉美に笑うと「どうして笑うの!」と言われて、こいつも変わったなぁと胸が暖かくなった。
「何かに困ったらいつでも言えよ」
「ええ。ありがとう。」
「…じゃあな」
電話を切る。そのタイミングで「命ぉ」と俺を呼ぶ声が聞こえて急いで寝室に戻った。
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