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第200話 命side
ユキは少しだけさっきより明るくなって、八神と楽しそうにしている。俺は勝手に早河の家のキッチンを使って珈琲を淹れてボーッとしていた。
「ユキくん待って!嘘やから!」
「命、命っ」
「あかんてー!」
八神が慌てて俺に近づくユキを止める。ユキはにこにこした顔で俺の膝に腕をおいて見上げてきた。
「あのね、琴くんねお家、泊まりに来てもいい…?」
「…駄目」
「なんでぇ…!」
「八神が嘘だっていってたし。どうせユキの家の泊まりに行きたいなぁって言われたんだろ?」
ユキをみてから八神をみると頷いて、安心したようにヘラりと笑った。
「俺、今命さんの家泊まりに行ったら大和が二度とここに入れてくれへん気がするから、いいって言われてもやめとく。ごめんなぁ、ユキくん」
「…ぅぅ…ん…」
口を歪めて俺に手を伸ばすユキを抱き上げる。
「八神がごめんってしてるだろ。いいよってしねえの?」
「……いいよ、する…」
「早く言ってあげねえと八神が悲しいって泣くぞ」
「……うん…」
八神が泣くのは嫌みたいで、俺の膝からささっと降りて八神に飛び付いて「いいよ」ってやっぱり少しだけ納得のいかない顔で言っていた。
「また遊びに来てなぁ、俺たまに学校サボっとるからさ」
「ちゃんと行けよ」
「とか言う命さんもそんな行ってなかったんやないですか?」
小さな声で「うるせえ」と言うと八神はふふっと柔らかく笑いユキに「またねえ」と手を振った。
早河の家を出て車に乗り込むとユキが「やだ」と突然口にした。
「何が嫌だ?」
「…僕、…一人嫌なの……」
「ああ」
一人が嫌なのは知ってるけれど。
「琴くんも一人、やだ…。そうでしょ…?」
「…でも、あいつがあそこから出ないんだ。それにいつもは学校だから一人じゃねえよ。」
「でも…」
「あいつはもうお兄さんなんだよ。俺達が何でもかんでも手を差し伸べたりしちゃいけねえの。わかったか?」
「…うん……」
自分自身が一人になるのでなく、他人にさえそう思うのかと思うと、優しい事はいいことだが、少し心配になる。
「ユキ、今は自分の事だけ考えてればいい」
「…僕の、こと…?」
「ああ。」
とは言ってもユキはどういうことかわからないと思うけれど。
ユキが何らかの重みで苦しくならなければいいと願うしかなかった。
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