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第212話
「やだ、降りるのやだぁ!」
「お前が散歩行きたいって言ったくせに何で歩かねえんだよ…」
飯を食って少しすると散歩に行きたいと言い出したユキ。だから外に来たのに本人は地面に足をつけようとしない。
「…やなのぉ…命がいい…」
「俺がいいって言われたって…」
「やだぁ!」
「はいはいわかった。わかったからバタバタするな」
腕の中で暴れ始めたユキを宥めて公園に行き、ベンチに腰を下ろした。俺の膝の上に座りながらブランコを見つめるユキに乗りたいなら行けばいいのにと心の中で笑う。
「…うぅ…」
「ブランコするか?」
「でもぉ…」
「背中押してやるぞ。すぐ側にいるのに寂しくなるか?」
「…な、なる、…かも、しれないの……」
どうしよう、と俺を見上げるユキに笑いが漏れそうになるけれど、何とか堪えて、「そうだなぁ。」と呟いた。
「俺と二人で楽しいことしてたら寂しくねえんじゃねえの?」
「…けどぉ」
「けどじゃねえって。ほら、遊ぼう」
───なんて、もしかしたら今日で会えなくなるかもしれないと思って寂しくなってるのは俺の方なのに。
「…お、お家帰る…」
「えっ、帰んの?」
俺の肩に頬を当てて動こうとしないユキに溜息を吐きながら、それでもわかったと家に向かう俺は甘えさせすぎなんだろうか。
家についてからも降りようとしないユキを洗面所に連れていって手を洗うように言う。
「ちゃんと洗えよ」
「うん…」
手を洗ってリビングに入ると途端ユキはニコニコ笑顔になった。俺にぴったり引っ付くこともせずにシロを追いかけ回して、疲れてソファーに腰を下ろして。
突然の変化に何があったんだと目をぱちぱちさせる俺のことなんて気にせずにテレビをつけて、DVDを観始める。
まるで俺のことを無理矢理頭から消そうとしているみたい。
それでユキが寂しくならないなら構わないけれど、違和感満載で俺の方が我慢できない。
「…ユキ」
「シロくんあのね、あの子、シロくんと同じ猫さんなの…」
「おい、ユキ」
「それで…」
「ユキ!!」
無視をするユキに思わず声を荒げる。ユキの肩はビクッと震えて、それでも俺の呼ぶ声には反応せずにシロを撫で続けてる。
────あっそ。お前がそうなら俺にも方法がある。
とかなんとか、思ってはみたけれど。
「───はぁ…」
そんな方法、ねえし。
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