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第214話 命side

泣き続けるユキの背中をポンポンと叩く。ユキに泣かれるのは面倒だとは感じるけれど、嫌だとは思わない。本当、ユキのことが好きなんだと思う。 「ユキ、キスしよっか」 「ん…ちゅー、する…」 俺を見上げるユキの目。泣いたせいで睫毛がキラキラ光ってる。瞼がゆっくり閉じられて、目尻にたまってた涙が一筋流れた。 ユキの小さな薄い唇に触れるだけのキスを落とす。そして離れると不満があるようで俺をジーっと見るユキにおかしくて笑えてくる。 「お前さっきまで俺のこと忘れようとしてたのになぁ。」 「う…っ、も、もっとちゅーするの…!」 「俺のこと忘れるなんて絶対に無理じゃねえか」 ニヤニヤ笑うとユキが俺の胸を叩いて「早くぅ」と尖らせた唇をんっ!と突き出した。 「俺のこと、大好きだもんな?」 触れるだけのキスじゃなくて、深く絡み合うキスを繰り返す。 舌を絡め、ジュッと吸って、苦しいと薄く目を開けて涙を流すユキを無視するように、ユキの後頭部に手を添えて逃げられないようにして。 どちらのかもわからなくなった唾液を送り、ユキがそれをコクッと飲んでから離れる。頼りなく銀色の糸が俺たちを繋ぐから、それを断つようにユキの唇を一度舐めた。 「はぁ…はぁ…っん、」 「苦しかった?」 「…うん…」 流れていた涙を拭いそっとユキを抱き締める。 「…明日の準備、しよっか」 「……うん…」 どれだけ寂しくて、明日なんて来るなって思っても、時間は過ぎて、明日はやって来る。 「…ほんとに…行っちゃうの…?」 夜になって、 ベッドに入る。 モゾモゾと動いて俺にピタッと体を合わせたユキが泣きそうな震えている声でそう言った。 「ああ」 「…帰って、くる…?」 「ああ」 「大丈夫」と言いながらユキを抱き締める。 「早く寝ろ。明日は早いから」 「ふぅ…ぅ…っ…」 「大丈夫だから。」 耐えきれずに泣き出すユキに大丈夫を繰り返した。 ユキが眠ってから一人、ベッドを抜け出す。もしもの時のために、金関係の物を小さな鞄に積め、それをユキの荷物の中に放り込みチャックを閉めた。 明日、それをトラに渡して、もし俺が帰ってこなかったらそれらをユキに使ってもらうように頼もう。 「……大丈夫、帰ってこれる…」 自分の声が震えているのに気づいてフッと笑った。

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