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第216話
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移動する車、車内はシーンとしていた。隣には鳥居が座っていて、鳥居がいるのに、それでもこんなに静かなのがきっといつもならおかしいと思えるのに、今は全く思えなかった。
ただ自分のことに必死で。帰らないといけない、死んではいけないと思うことで精一杯。
「…命さん?」
「何だ」
「すごい怖い顔してたから、リラックスリラックス、ね?」
「できるわけねえだろ」
クスクス笑う俺につられるように運転席に座る組員と助手席に座る組員が笑う。
「命さんが怖い顔してるから誰も話せないんですよ~?本当は皆ケラケラしていたいんですって。」
「…しとけよ、そっちの方が俺もありがたい」
「だから、できるわけないでしょ~!」
「そうかよ」
もう!と俺の肩をペシペシ叩いた鳥居に気ぃ引き締めろよ、と言いたいけれど、その空気に圧巻されてしんどくなるかもしれなくて言えない。
「大丈夫って顔、しててくださいよ。」
「ああ」
「ほら、今は笑って~!向こうについてから怖い顔してくださいー!」
「わかったわかった。」
俺が笑うと車内は少し明るくなった。俺のせいだったのかよ…と心の中で一人ツッコむ。
「そういえば、若も来てるんですよね?」
「ああ」
「俺は親父と若を守ってればいいんですよね~!頑張らないとなぁ!」
目をキラキラさせてる鳥居を見て苦笑をこぼした。
「気ぃ引き締めろ。そろそろだ」
幹部に渡されているインカムに親父の声が流れた。それぞれ返事をして少しすると目的地に着く。
山瀬組の本家の中の様子を伺う俺達、向こうもきっとこっちに気づいて慌てて用意をしてるに違いない、少し騒々しい。
「行け」
低い声が耳にダイレクトに届いて、俺は俺の下についてるそいつらに「行け」と指示を出した。同じタイミングでそれぞれ幹部が指示を出し組員が山瀬組の中に突入していく。
早河と八田、鳥居で親父と若を護衛しながらゆっくりと進んでいく。
俺はさっさと親父たちの進む道を開けねえと、と立ちはだかる敵に向かってチャカを構えた。
怒号や悲鳴、銃弾が飛び交う。
時に赤い飛沫が舞って、服を汚した。
今のところ動けない負傷者は出ていないらしくて情報流れてこない。
「命、さっさと今いるところ突っ切る。山瀬の頭のとこまで行くぞ。」
親父からの命令にかかってくる敵を倒す。右からチャカを向けられて、相手より先に発砲した。そいつの利き腕の方、右肩を貫いた弾、痛くて地面に転がり悶えるそいつからチャカを遠ざけ、次々と発砲していく。
俺より前を行く赤石の姿が見えた、いつもキラキラと眩しく光っているあいつの髪が返り血で赤黒くなってる。表情もいつもみたいにヘラってしたものじゃなく、"無"だった。
人がたくさん倒れてる廊下を突き進んで奥の部屋、明らかにここが組長の部屋なのだろうとわかる造り。
親父に端にいてもらい、赤石と扉を左右に挟んで勢いよく開け、中に向かってチャカを構えた。
「よぉ、早かったなぁ」
ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべる山瀬組の頭がそこに余裕そうに座っていた。
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