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第230話

眠たいのはシロだけじゃないようで、テレビをみながらユキはうとうととしだした。コクコクと首を揺らしてソファーに寝転べばいいのにそれが嫌なのか抗っている。 「あんた隣に行ってあげなさいよ。シロくんは私がみててあげるから」 「悪い」 眠っていたシロを「ごめんな」と謝りながら起こしてトラに預け、ユキのところに行く。ユキは俺が来たとわかった途端へにゃりと笑って俺の方に腕を伸ばしてきた。 「抱っこか?」 「抱っこぉ」 ユキを抱き上げてソファーに座りそのまま眠れるようにと背中を軽く叩いてやるとすぐに目を閉じた。 「……………」 「ねえ命、あんたの怪我のことはわかってるし、仕事もこなして約束通りここに帰ってきたのはすごく嬉しい。けど……私たちは"今"を望んでなかったわ。……誰よりも、ユキくんがね。」 「わかってる」 「責めるようで悪いけど、あんたはユキくんがいないときの記憶はあるのよね?じゃあ自分の小さかった頃の記憶は?───あんたとユキくんは似てるのよ。…それは覚えてる?」 小さい頃の、記憶…? それは思い出したいと思えるような記憶じゃないことは知ってる。だからかはわからないけれど、なかなか思い出せない。 「…あんたは嫌なことを忘れようとしてるのよ。ユキくんのことが嫌だったんじゃなくて、自分の過去と似ているこの子の過去が嫌なんじゃないの?だから、思い出したくてもなかなか…ユキくんのことが思い出せないんじゃない?」 腕の中にいるユキを見る。すやすやと眠るこいつ、あれ、こいつは一体何歳だっけ。 「……トラ、ユキって何歳なんだ」 「14歳よ。14歳でその体なの。言いたいことわかる?」 ガンガンと酷い頭痛が襲ってきた。今まで感じたの以上にそれが痛くて、ユキをソファーに下ろしてから頭を押さえる。なんだこれ、気持ち悪い。 「……あんたにそっくりね」 そこで俺の意識は途絶えた。

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