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第235話
しっかりと全部思い出した俺はトラに色々迷惑をかけたことを謝った。すると
「謝らなくていいのよ、ちゃんと帰ってきたんだから。」
と頭を撫でられて暖かい気持ちになる。
「もう大丈夫よ、帰って二人でイチャイチャラブラブしてなさい」
「ありがとな」
「ええ。」
トラとそうして話をして、赤石にも鳥居にも早河にも「悪かった、ありがとう。」と頭を下げた。
「このままみっちゃんが思い出さなかったら俺、みっちゃんの彼氏になれてたかもしれないのにぃ」
「ちょっと赤石さーん、何それー」
「うるさいって言ってんだろ黙れよ」
「ねえ酷くないですか~?こんな酷い人、命さんの記憶がなかったとしても命さんは選ばないと思いますけど~」
ワー、キャーと喧嘩をする二人を叱る早河は俺に笑う。
「ユキくんは、きっとずっと我慢してた。早く家に帰ってもう大丈夫だって安心させてやれ。」
「ああ。本当、ありがとう」
ユキと手を繋いで建物を出る。
近くでタクシーを拾ってマンションまで向かった。
***
「僕、鍵開ける…」
「ああ。」
ユキに鍵を渡して玄関を開けてもらう。記憶を思い出したからかとても久しぶりな感じがした。
「…ただいま」
自然にスッとその言葉が出て、ユキも俺のあとに「ただいま」と呟く。
「…命、おかえりなさい……」
「ただいま」
ユキを抱き締めてちゃんとユキのもとに帰ってこれて嬉しい。
ユキと何度もキスを繰り返して、それはユキが立てなくなるまで続いた。
「…僕のこと、なんで、忘れてたの…?」
「……えっと…」
リビングでテーブルの席につく俺にシロを抱きながらそういうユキ。話したくは、あまりないけどそうもいかないのだろう。
「…俺さ、ユキと似てるところがあって……」
「うん」
「家族に捨てられたんだよ」
そう言うとユキの顔が歪む、ユキの口がどうして、と動いた。
「俺のことが気に食わなかったんじゃねえのかな。あんまり知らねえけど。暴力とか振るわれてて」
「…痛いの、たくさん我慢したの…?」
「まあ、うん。」
「…悲しい…?」
「今は俺の親父みたいな人がいるし、早河も、……それにユキとシロっていう家族もいるから、その時のこと思い出すと嫌だとは思うけど、悲しいとは思わねえよ。」
首をかしげたユキ、だってあの時本物の俺の親父が俺を捨ててくれなかったら、きっと今俺はこうして生きていない。生きることをやめようと思っていたから。
「ユキに会えて、本当によかったって思うよ」
「僕も…!命が拾って、くれたから…悲しくないの…!」
にっこり笑ってユキをつれて俺に近寄ってくる。ユキとシロを膝の上に乗せた。
「ありがとうな。」
「僕も、ありがとう、ございます…」
ユキがどうしても愛しくて堪らなくて胸が苦しくなる。
「…ユキ、抱いていい…?」
「抱く…?」
「セックスしていいかって、こと」
「…セックス……する…」
シロが俺の膝からピョンと飛び降りる。
ユキを抱き上げてまずは風呂に向かう。俺、風呂は入れてないし、このままするのは何か嫌だし。
「セックス、しない…?」
「先に風呂入るんだよ」
「……お風呂」
「そう。それから、な。」
本当にいいのかとか、不安とか、そんなのは感じなくて、ただ幸せな気持ちが俺を満たしていた。
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