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第9話 命side
「起きろ」と声が聞こえたのと同時。頭に衝撃が走って目を開けた。
腕の中にはユキがいてまだすやすや眠っている。っていうことは合鍵を持ってるあいつしか…
「おい、命起きろ」
「…早河」
「俺は忙しい。早く話を済ませたい」
眉間に皺を寄せている強面な顔をした早河。朝からそんな顔を見るなんて、何とも楽しくない一日の始まりだ。
「夜に来いよ」
「あ?お前に合わせてられるかってんだ」
ベッドから抜けてリビングに向かう早河の後ろをついて行く。
とりあえずコーヒーを淹れてソファーで偉そうに座ってる早河の前に置いた。
「で?さっきのあの子か」
「そう。宿無し名無し。まあ名前はもう付けたけど。」
そう言うと溜息を吐くこの男。
早河 大和 は浅羽組という極道の幹部をしている所謂ヤクザ。そしてそんな奴とこうやって話をしている俺も浅羽組の幹部であったりする。って言っても最近は組の方に顔を出すことは少ないけれど。
早河は他の幹部達を纏める幹部の中でのリーダーの様な存在で、だから幹部内で何かあったらまず早河に報告をする事。それが当たり前になっている。
「で?あの子をどうするんだ」
「…………」
「お前な、後先考えずに行動するのはよせ。…仕方ない。名前をつけたんだろ?お前が育てろ」
「は!?ちょっと待てよ!俺はいつもお前が”助けられた命を見捨てたのか”とか言うから拾ったまでで…」
そういうと冷たい目が向けられる。
「けど、こうとも言ってるよな?”拾ったなら最後まで面倒見ろ”って」
「あ、あー…そんなことも…言ってなくは…ない」
「じゃあやるべき事は一つだよなぁ?親父には俺から伝えといてやる。けどな、これだけは忘れるな。あの子は"こっち側"の人間じゃねえ。」
「それは…わかってる。」
重たい空気、沈黙が走る。
それを破ったのは大きな子供の泣き声。
「み、みこと…命っ、うぇ……命ぉ…」
泣きながら名前を呼ばれて慌てて寝室に行くとユキが床にへたりと座って、えぐえぐと涙を流しながら嗚咽を繰り返していた。
「ユキ?ユキ、泣くなよ」
「だ、だってぇ…っ、起っきした…命、いな…」
「はいはい。悪かったよ」
ユキを抱き上げて背中をポンポンと赤ちゃんをあやすように撫でると俺の肩に涙でグシャグシャな顔を押し付ける。おいおい、この服、昨日洗ったばかりなんだけど。
「ユキ、今俺の友達が来てるんだ」
「命、友達、いるの…?」
お前から見て俺は友達いなさそうなやつに見えるのか?まあそんなことはどうでもいいけれど。
「いる。会ってみる?」
「……ん」
コクりと顔を埋めたまま頷いたのを確認してそのままリビングに行く。
早河は俺が子供を抱っこしてるのが面白いのかクックッと笑っている。
「ユキ、俺の友達の早河」
「ユキくん、初めまして。早河です」
早河が俺や組員達と話すときは絶対しない優しい話し方でユキに話しかける。ユキは早河を確認して顔が怖かったのか「ヒッ」と小さく悲鳴をあげた。
「ぶはっ、早河お前怖がられてんぞッ」
「うるせえぞ命、黙ってろ」
あーあ。低い声出しちゃって。それがまたユキを怖がらせる。
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