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第10話

案の定ユキは怖がり、俺の肩に顔を埋めたまま動こうとしない。 「ユキ、自己紹介出来るだろ?」 「で、でもぉ」 「俺もお前の自己紹介聞きたいんだけどな」 そう言えば顔をゆっくりあげて俺と早河の前にビクビクとした様子で立ち視線を地面に向けながらゆっくりと話し出す。 「…名前、ユキ…いいます…14才で、男の子で…」 「ユキくん、宜しくね?」 「…あ、ぁ、う」 「ユキ、早河は顔は怖いけど、優しいからそんなに怖がんな」 そう言うと勢いよく顔をあげて早河を見て「よろしく…おねがい、します」と口にした。 早河は「いい子だね」とユキの頭を撫でている。そんな早河の顔は気持ち悪すぎてついつい目を逸らしてしまった。 「早河さんと、命…友達…」 「友達?俺と命?」 コクリと頷くユキは「違うの…?」と首を傾げる。 「友達だけど、家族でもあるね」 ニコニコ笑顔でそう返していた。 家族か。うん。まあ、そうだなぁ。 「僕、命…友達?」 「ユキくんと命は友達だし、今日からは家族だね」 「ほ、ほんとぉ…?」 家族が嬉しかったのか友達が嬉しかったのか、俺をキラキラした目で見てくる。 「本当だよ」 そう言えばニコニコ笑うからこれでよかったのかなぁ。と小さく息を吐いた。 それから何でもない話をしていくうちに、ユキと早河は少しだけ仲良くなった。まだ目を見てってことは出来ないようだけれど、俯きながら、だけどちゃんと早河と会話をしているユキ。そしてそれをまるで父親のように優しい目で見る早河。 俺にとっては何とも微妙な光景だ。 仕事の時の早河を知ってるからこそ、逆にこの光景が怖く思えた。 「悪い、仕事だからそろそろ行く」 「ああ、ありがとな」 早河につられるように立ち上がり玄関まで見送る。そんな俺の足元で小さな体のユキが俺のズボンをクイクイと引っ張った。 「は、早河さん…帰る…?」 「そう、早河は仕事があるからな」 そう言うと悲しそうな顔をするユキ。 「早河さん…優しい人…帰る、嫌」 そんなことを言うユキに驚いた。それは早河も同じだったようで間抜けな面をしてる。 「ユキくん、また遊びに来るからね」 「本当ぉ…?」 「ああ、俺とユキくんとの約束だ」 約束な。そんなもんしねえ方がいいのに。早河もバカだなぁ。と心の中で思っているとそんな俺の思いを見透かしたように早河は鋭い目で俺を睨み付ける。 「俺はお前じゃないから約束ぐらい守れるんだよ」 「そうかよ」 「そういえば、鳥居がたまには顔出してくれって言ってたぞ」 「え…」 鳥居(とりい) (ゆう) 俺達と同じ浅羽組の組員。 組で育てられて何故だか俺を尊敬する人、とか言ってよく一緒にいた。 「面倒くせぇ」 「まあ、そろそろ顔出せって。親父もお前に会いたがってる」 そんな言葉を残して早河は出て行った。

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