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第11話

腹減ったなぁ。と時計を見れば午前9時。 そりゃあそうか。グゥと遠慮気味に鳴った腹を擦る。 「ユキ、朝御飯、パンしかないけどいいか?」 「…あ、朝御飯あるの!?」 そこに驚くのか。とかそういうツッコミ、俺はいれないぞ。 頷いてみせて、ユキと一緒にキッチンに行きトーストにチーズを乗っけたのを焼く。焼いている間にユキをテーブルの席につかせ、オレンジジュースを渡す。 パンが焼けて、ユキの前にそれを出すと目をキラキラさせながらそれを見ている。 「た、食べても、いいの…?」 「ああ。ちゃんと"いただきます"が出来たらな」 「いただきますって、なあに…?」 まさかの質問に溜息を吐いた俺に、ユキが「ごめんなさい」と謝ってくる。いや、お前が悪いわけじゃない。 「お前は何も悪くないだろ。…じゃあ、はい。手を合わせて」 そう言うとパチンと音がするほど勢いよく両手を合わせたユキ。続いてそのまま「いただきます」と言えばユキも遅れて「いただきます」と言った。 「今のが出来たら飯食っていいんだよ」 「僕、出来た…?」 「ああ。」 だから食べてもいい。とパンを指さすと、ユキは急いでパンを口に含む。おいおい、そんなに一気に食ったら喉に詰まるぞ。 「ゆっくり食べる」 「ん…っでぼっ」 「喋るなら口の中のが無くなってから」 コクコク頷いたユキはオレンジジュースでパンを喉奥に流し込んで、一息吐いてから話し出す。 「ご飯…早く食べる、取られちゃうの、だから…」 「もう誰もそんな事しないからゆっくり食べな。じゃないと喉に詰まって苦しくなるぞ」 「はい」 ゆっくり味わう方がきっと腹もいっぱいになる。 俺の言葉を聞いてから、小さく手でちぎって、ゆっくり食べだしたユキに、こいつの両親はどうしてこんな小さな子供に酷い事が出来たのかと、心の底から軽蔑した。 時間を掛けて、やっとパンを食べ終えたユキは嬉しそうに足をバタバタさせている。 「ユキ、食べ終わったら"ごちそうさま"だ」 「ごちそうさま…いただきますと、同じ…?」 「そう。ほら、手合わせて?」 手を合わせたユキは大きな声で「ごちそうさま」と言って、出来たことが嬉しいのか俺に両手を見せてくる。 はいはい、可愛いね。 小さい子供は何も知らなくて純粋で愛らしい。 その手をいつまで経っても下げないから、俺も手を伸ばして小さな手にパチっと手を合わすと、満足した様で手を下ろし、ふふっと笑う。 いそいそと椅子から降りてテーブルの上の皿をとったユキは、きっと皿を運びたいんだろうけど落としてしまわないようにと慎重に足を進めているから……それ、あとどれくらいでキッチンに辿り着くんだ? 「無理しなくても良いぞ」 「僕、するの」 どうやらどうしても自分でしたいみたいで。小さな背中に「頑張れ」と声をかけると嬉しそうに振り返って笑う。振り返る時に皿を落としそうになって焦ってるそんな姿を見て、今度は俺が笑う番だった。

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