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第12話
皿を運ぶ。それだけで疲れたのかユキはソファーにぐったりと座りながら、点けていたテレビを見てボーッとしている。そろそろ俺も皿を片付けるか、と立ち上がると同時、ユキが俺の足元まで歩いてきた。
「どうした?」
「…お、おしっこ」
「へ?」
「おしっこ、出ちゃうっ」
慌ててユキを抱き上げてトイレにつれて行く。ドアの前まで来ると「見ちゃ、メッ!」と言い、そこに取り残された。
そういえば、あいつ下着着てないんだよな。ちゃんと買いに行ってやらねえと、可哀想だし。
「買いに行かねえとな…」
「───命!」
トイレを終えたユキが俺にの足元で、俺に向かって両手を伸ばしてる。
「ん、何?抱っこ?」
「違うの、お手手!ちゃんと洗ったよ!」
「そっか。偉いな」
頭を撫でてやるとニコニコ笑って、けれどそのまま手は直さない。
「何?」
「…抱っこ」
「結局するのかよ」
ユキを抱っこしてリビングに戻る。てか流石にユキもノーパンのまま買い物に行くのは嫌だろうし、かと言ってここで一人留守番させるのも可哀想だ。
「鳥居に頼むか…」
さっきもちょうど会話に出ていた名前。あいつなら俺の頼みの一つや二つは簡単に聞いてくれるだろう。そんな事を思いながら鳥居に電話をかけた。
「子供用の下着買ってきて」と頼めば「変態ですか?」と言われ「ぶん殴るぞ」と言えば、ケラケラと笑い「お任せ下さいー」と言われて電話は切れた。
どうやら下着は買ってきてくれるようで、あいつの事だ、少し待っていればすぐに来てくれるだろう。
「誰か、来るの…?」
「ああ。」
「早河さん…?」
「早河じゃない」
不思議そうに首を傾げるユキ。
俺の膝の上に座らせると、俺の手を掴んで、自分の手と大きさを比べている。
「命のお手手、大きいね…、僕のお手手、小さいの」
「ユキもすぐ大きくなるよ」
「本当ぉ…?でもね、大きくなったら、僕、もっと、邪魔になる…」
突然、そんなことを言い出したユキに、何だか嫌な予感がした。
「邪魔?お前が?」
「うん。あのね、お母さんがね…いつも、邪魔って、僕のこと、嫌いって…」
ああ、やっぱり。そんな事だろうと思った。
そんな記憶をあまり思い出して欲しくない。そう思ったのは、ユキがその記憶の話をすることで、俺の忘れたい過去が薄ら蘇るから。
「ユキは邪魔なんかじゃない。だからもうそんな事思わなくていい」
「そうなの…?」
「ああ」
抱きしめてそう言えば、嬉しそうに頬を緩めて「僕、邪魔違うの…」と何度も繰り返す。そんな時。
───ピンポーンと軽快な音が鳴りユキが「な、何っ…!」と俺の腕を強く掴んだ。どうやら突然鳴った音に驚いたらしい。
「お客さん。」
そういうと不安そうに眉尻を下げるから「大丈夫」と頭をガシガシ撫でてやる。抱っこをしたまま、玄関に向かいそのドアを開けると、そこには真っ赤な髪をした鳥居。
「おっはよーございまぁす!!」
「…真っ赤…鬼さんだぁ……」
そんな鳥居を見て、ユキは正直な感想を述べた。
鳥居の髪は赤色で、適当にセットしてるそれはツンツンとしていてそれがユキは鬼に見えて、怖いらしい。
「あ~ん?誰です?」
「わぁッ…ぇ…え…僕…ユキ…」
「ふぅん。…で?誰が鬼だ」
ユキに顔をグッと近づけた鳥居。おいおい、やめろよ。ユキが涙目になってんじゃねえか。
「鳥居やめろ。」
「はーい。あ、買ってきましたよー!」
袋をユラユラと揺らしてヘラヘラ笑う鳥居に、ユキは少しだけ体を震わせていた。
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