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第22話

「これ、俺の携帯に繋がるようになってる。あと俺が電話かけたら画面に名前が出るからその時は電話を取ってくれ。あと……ピンポンって鳴っても玄関は開けなくていい。昼までには帰ってくるから」 「…本当に、行くの…?」 「ああ、行ってくる。」 何度もこのやり取りをした。玄関まで見送りをしてくれるユキの目にはまた涙が溜まっていて、すごい罪悪感に襲われる。少しの間留守番をさせるだけで、何で俺がこんな気持ちにならなきゃいけねぇのか。 「じゃあ、いってきます」 「…ぅ…いって、らっしゃい」 バタンとドアが閉まりユキの姿が見えなくなってから一度深呼吸をしてそれからキッと気を引き閉めた。久しぶりに着たスーツは何だか違和感。それに久々に組の方に行くけど、理由は子供の服をもらいに行くだけ。まあ仕事ってわけじゃないから、今は気が楽だけれど。 車に乗って走らすこと20分。 大きな昔ながらの、まさに極道って感じの場所。車庫に車を止めて、厳つい門から中に入れば、これまた厳つい顔した奴らが俺を見ては「命さん!」と言って頭を下げる。 そこにいた奴等には適当に返事をして鳥居の部屋を目指した。親父の息子として組全体で育てられた鳥居には、この本家に自分の部屋があってそこで暮らしているわけで。 「鳥居、入るぞ」 「……………」 返事がない。あいつまだ寝てるのか?まあいいやと部屋の襖を開けてみれば中は真っ暗。端にあるベッドには膨らみ。 「おい!起きろ!」 「ってぇ…」 ガシッとその膨らみを蹴ってやればのそっと起きた鳥居。低血圧な鳥居は朝にめっぽう弱くて、寝起きは最悪と言うくらい機嫌が悪い。 「起きろ」 「…ッチ」 普段の鳥居からは想像できない程だ。 ベッドから降りて赤髪を所々跳ねさせてフラフラと近づいてくる鳥居からは少しの殺気。 「俺を蹴り起こすのは命さんぐらいだっての…」 「その命さんだボケ。いつまでも寝惚けてんじゃねえよ」 頭を叩いてやるとやっと顔をあげた鳥居は、俺を見て顔を蒼白させた。 「命さんだ……ぁ、あの、えっと…ごめんなさいぃ!!俺舌打ちしちゃったぁぁ!!」 項垂れる鳥居に「どうでもいいから顔洗いに行け。」と言うとまたもフラフラ歩いて部屋から出て行った。 そんな鳥居を待つことはせずに、挨拶をする為に親父の部屋に向かう。 長い廊下を歩いていると、角から早河が現れた。 「おはよう」 「おう、おはよう」 「ユキくんは大丈夫なのか」 「ああ」 それだけ言うと親父の部屋に続く廊下を二人で並んで歩き出す。 「お前も親父に用あるのか」 「親父に呼ばれたんだよ」 タイミングが悪かったか?また後で出直した方が…と考えていたところで、物凄い足音がすごいスピードで近づいてくる。後ろを振り返れば寝癖も直して服も着替えた鳥居の姿。それを見て早河は大きな声で怒鳴った。 「鳥居ッ!!いつも走るなって言ってんだろうがッ!!」 「命さぁぁぁん!!」 早河の言葉を聞きもしない鳥居。そしてドスッと腹に衝撃。地味な痛みが広がって、その痛みの原因の鳥居の頭を鷲掴みしてやる。 「え?え?何で怒ってるんですかぁ、痛いです痛いです、手、離してぇ」 「…本当お前は…。兎に角、早河の言うことは聞け」 「ええー!だって早河さん怖いし…」 隣の早河をチロリ横目で見ると何故か薄く笑っていて背中が冷たくなった。何だその顔、気持ち悪い。 「親父の所に行くんでしょ?俺も行きます!早く行きましょー!」 「…ああ」 鳥居に腕を引かれたまま、親父の部屋に三人で向かった。

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