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第23話

大きな部屋の前に来て凄く緊張した。久しぶりの感覚に帰りたいという気持ちが足を一歩後ろに退かせる。 「親父、早河です。」 「…入れ」 いつものあの低い声、いつもなら落ち着く安心する声が、今は不安を掻き立てるものになった。 「黒沼です、失礼します。」 「親父!鳥居です、入りますー!」 三人揃って中に入る。親父はそんな俺達をソファーに座って見ていた。 「おう、早河に夕に…命」 他の奴等には何も思わないのに親父に名前で呼ばれると何故かいつも擽ったく感じる。 「命、久しぶりじゃねえか」 「はい」 「早河に聞いたぞ、子供を拾ったみてえだな」 「はい」 「育てるの、大変だろ」 そうだ、それで昨日俺は親父の凄さを改めて知ったんだ。 「はい。親父には本当、感謝してます」 そう言えばクックッと笑った親父が俺に近づき頭をわしゃわしゃと撫でてきた。 40の後半。正確な年齢は知らねえけどきっとそれくらい。昔から親父は何も変わらない。いつもかっこいい。それはこの人の心の寛大さが余計にそう見せているのかもしれない。 「その子供、名前は?」 「ユキって、いいます」 「そうか、今度会ってみてえな」 俺を見て優しく笑うから、さっきまで感じていた緊張や不安も何処かに消えていった。 そんな親父も、話が一段落つくと、すぐに仕事モードに入る。 「早河お前を呼んだ理由はこれだ」 早河に資料が渡される。それを見て思い出した、俺の纏めた資料!まだ早河に送ってなかった。 「これは…?」 「あとで説明する。今はとりあえずそれに目を通しておいてくれ。で、夕はどうした?」 実の息子のように鳥居に話しかける、鳥居はそれが嬉しいみたいで親父のもとに寄って行き、親父の隣にちょこんと座った。 「俺っ、俺!ユキくんと友達になったんですー!」 「へぇ、友達か」 「ユキくん、女の子みたいに可愛くてぇ、最初は女の子だと思ってユキちゃんって言ったらちょっとだけ怒って…可愛かったぁ」 そんなどうでもいい最近あった自分の話を親父に出来るのはこいつくらい。親父もそんな鳥居が可愛くて相槌をうって話を聞いてやってる。 ────鳥居には"友達"がいなかった。 鳥居は小学生の頃、その頃にはもうとっくに浅羽組にいた。俺も俺でその頃にはいろいろあって浅羽組の組員や親父とは顔見知りで仲がよかった。 そして、そんな鳥居には力があった。 それこそ小学校にある机を投げ飛ばしたり、同級生や上級生と喧嘩になると殴りあって無敗を決め込んでいた。 もし、それが高校生くらいなら鳥居の強さに憧れて仲間が出来ていたかもしれないが、小学生の子供にはその光景が恐怖でしかなかった。 そのまま、友達のいないまま中学に上がり、また上級生と喧嘩をする毎日。そんな鳥居に親父は厳しいことを言った。「人を傷つけることしか出来ない人間が、人に優しくされるわけがない」と。それからあいつは悩みに悩んで、それでも人を傷つけることしか出来なかった。 高校生になると鳥居に学校での居場所が存在しなくなった。教室に入っても煙たがられ、怖がられ…それが逆に鳥居を傷付け、怒りにする。 そんなある日俺と組の仕事に出掛けた。その時はもう俺が20歳で鳥居が18歳、だから一昨年の事。 俺はよく覚えていないが、その仕事がきっかけで鳥居は変わった。人にそれまでより優しく接するようになって、必要なときしか力を見せないようになった。 だから、今まで友達が出来なかった鳥居にはユキという存在がとても嬉しいんだろう。

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