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第27話

「荷物とってきますー!」と一度帰って行った鳥居。やっと静かな時間が訪れた。ユキの寝息が聞こえてきて俺もそれにつられて眠たくなってきて。あ、そうだ、寝る前にデータを早河に送らねえと。 パソコンを立ち上げて、眠たさに暫くボーッとしてから早河宛にそれを送った。今日はもうこれで終わり。何もしたくないと机に伏せて目を閉じる。少しだけ疲れた、だから少しだけ、眠らせてくれ。 *** 「お前なんて人間のクズだッッ!」 そうして頬に痛みが走り、小さくて脆い体は床に叩きつけられる。 「あぁ……どこで間違えたんだ……」 項垂れる男と、その男を呆然と見る小さな少年を、すぐ近い場所で眺めていた。ハッキリとした記憶、最悪な思い出。 ───そうだ、この少年は幼い頃の俺だ。 「お前は病院に入れる……人と同じようになるまで出てくるな。」 バタンと閉められる白い部屋のドア。一人になった空間、体を動かすことで鳴る衣擦れの音。 ずっと一人だった。家に居てもずっと。どこで間違えたんだ、なんて…そんなのあんたらが俺を生んだところからだ。だって俺は人とは違う。 そんなことを考えていたあの日の、白い部屋の窓から見える空は、憎いくらいに蒼かった。 どれだけ耐えても明るい未来なんて来ない。それならここで、自分の手で、人生を終えれたらどれだけ楽なんだろう。そう考えて死にたくなったあの日。窓枠に手を置き下からここは何階なのかを数える。 ──────5階。 ここから飛んだならきっと、死ねる。俺が生まれてきてしまったという事実をリセット出来る。 窓枠に手をつきながら体を前に、前に…傾けた。 ───そんな時だ。 俺の部屋に、食事の時以外誰も来ないこの白い部屋に、白とは対照の人が現れる。 「お前、死にてえのか」 初めて見た顔、初めて聞く声。それは少しだけ怖い。でもそれを表す方法をその時の俺は知らなくて、ただそこに立つ男の人を見つめるだけ。 「…助けてやろうか?」 そう言う男の人に助けを求めたら、こんな下らない世界から飛び出せるのだろうか。 「お前のその下らない世界を、俺が面白くしてやる。もっと生きたいと感じさせてやる」 そう言って笑う男の人を、もう怖いとは思わなかった。

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