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第28話

体を揺すられてゆっくりと目を開く。 目に濡れた感触、目元に触れれば少しだけ濡れていた。 「命、怖い夢、見た?」 俺より先に起きたユキが心配そうな表情で俺の顔を覗いてくる。それをぼんやりと見て、首を振った。 「懐かしい夢、見てた」 「泣いてるの…命、泣き虫さん?」 「泣き虫はユキだろ」 机に伏せていたから体が痛い。固まった体をグーっと伸びをして解した。 「鳥居は来たか?」 「夕くん…?いないの」 そっか、と一人で頷いたと同時、ピンポーンと軽快な音が鳴る。立ち上がって玄関に向かいドアを開けると、そこには鳥居と、何故か早河もいた。 「何でお前まで?」 「仕事ついでに鳥居を送りに来た」 「ふぅーん」と言葉を返して、さっさと靴を脱いで部屋に上がる鳥居に軽く体当たりされたけれど無視をする。それよりも脱ぎ散らかった鳥居の靴が気になったから。 「ユキくんを見たら帰る」 「ああ」 鳥居の靴を揃える為にしゃがみ込むと、靴を脱いだ早河が俺の頭にポンっと手を置く。 「お前、疲れてんだろ。」 「何で?」 「目元が少しだけ赤い。泣いてたんだろ?……昔のことでも思い出したか?」 「…親父と、初めて会った時の夢見てた」 早河はいつも気付いてくれる。 俺はいつも早河に素っ気ない態度をとっているけれど、これでも頼りにしているし、感謝だってしてる。 「ほら、行くぞ」 リビングから鳥居の俺たちを呼ぶ声が聞こえてきた。 「ユキくん、こんにちは」 「わぁ!早河さんだぁ」 リビングに行くと早河を見たユキが嬉しそうに笑う。早河に手を振ってるユキだけれど、鳥居に抱き着かれていて少しだけ苦しそうだ。 「鳥居と仲良くなったんだね?」 「夕くん、僕、好き」 「そっか。よかったな鳥居」 「はい!」 そんな様子を横目にテーブルの席について深呼吸を繰り返す。久しぶりに夢を見た、夢を見るときは大抵少しだけ不安定な時だと自分で知ってる。 あの夢の始め、俺の頬を打っていた男───俺の父親は今頃何をしているのだろう。 頬杖を付き一人でぐるぐると考える。一人で考える時って結局良い案は出てこないのだが。 「命」 「んぁ…?何?」 早河が俺の対の席に座って俺を見ている。何だよ、その真剣な顔。面倒な話はお断りだぞ。 「今日は家事は全部鳥居にやらせてお前は休め。ユキくんを拾う前から働きすぎだ」 「はぁ?お前に言われたくねえっての。毎日時間いっぱいいっぱい働いてるお前のが休みとって休ませてもらえよ」 ユキを拾った頃よりも前、厄介なことが起こった。そのせいで俺は連日連夜働くことになって、それは早河も同じで。 それからも早河は後処理とかで忙しかったらしいが、俺はユキを拾う前から休みをもらっていたから、今はこうやってボーッと暮らしている。だからほら、やっぱり早河の方が疲れてんだろ。 「俺は良いんだよ」 「意味わかんねえよ」 俺の溜息はユキと鳥居のはしゃぎ声にかき消された。

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