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第29話
それから早河は俺に「ちゃんと休め」としつこく言ってから仕事に行った。
だからお前こそ休めって。と言おうと思ったが、それは叶わない。なんせ早河はもう、仕事のスイッチが入りかけていたから。
何の仕事だろうか。取立てに見張りに護衛…それとももしかして────誰かを、殺しに…?
考えていると着ていたシャツをクイッと引っ張られる、下を見ればユキがもじもじしながらそこにいた。
「命ぉ、僕、オレンジジュース飲みたい、コップいれるの…」
「自分でいれるのか?」
「うん、僕、自分でする」
「そうか、偉いな」
ていうか、鳥居は?
少しだけ静かになった部屋を見渡すとソファーで寝てる鳥居を発見。あいつはどこの家でも遠慮なく眠れるらしい。まあ、何でもいいけれど。
「キッチン行こうか」
ユキの手を掴んでキッチンに足を運ぶ。
「オレンジジュース…オレンジジュース…」
何かの呪文みたいに「オレンジジュース」と唱えるユキにオレンジジュースの入った牛乳パックを渡してやる。それからコップを出して、それも渡すと嬉しそうに受け取ってキッチンの台に置き、溢さないように慎重にチョロチョロとコップに注いでいった。
「わぁ。出来たぁ!」
「おう、よかったな。」
頭を撫でてやり牛乳パックを受け取って冷蔵庫に直す。ユキはオレンジジュースの入ったコップをまた溢さないように慎重に、慎重にリビングまで運んだ。
「夕くんにも、オレンジジュースあげるの」
「鳥居が起きたらにしような」
テーブルにコップを置き、またキッチンに行こうとするユキを止める、そしたらコクンと一度頷いて席につきゴクゴクとそれを飲み干していった。
時刻は午後4時、ユキが暇そうにしてたから以前鳥居が家に来たときに置いていったアニメのDVDをつけてやる。初めて見るのか現れた登場人物たちを指差しては全員を俺に紹介してくる。
「猫さんなの!」
「そうだな」
「わぁ!この人、僕と一緒…何やってもダメ…」
何の取得もなく何も出来ないというポンコツなキャラクター。それを見てユキは「一緒」と何度も呟く。そんなことないっていうのに、自己評価の低い奴だ。
「ユキはそんなことねえよ。さっきだって溢さずにここまでジュース持ってこれただろ?それに鳥居の分までいれてあげようとしたんだし、お前はすごく優しい良い子だよ」
そう言ってやると嬉しそうに頬を緩ませてからまたテレビに目を向ける。
そうそう、良い子だからそんなに自分のことをそんなにいじめてやるな。勝手に自分はダメなやつだと思い込んで、追い詰めて、そうして苦しくなってしまっているユキの姿なんて見たくないから。
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