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第32話

昔はよく鳥居がここに泊まりに来ていたから、来客者用の部屋が俺の家にはある。そこのベッドにシーツをひいて布団を出し用意する。 時間はもう22時を回っていてユキを寝かさないと、となぜかすごく焦る。 「ユキ」 鳥居にオレンジジュースをやっと渡せたのかゴクゴク飲む鳥居を見て嬉しそうにしているユキの背中に声をかける。 「命ぉ!」 「お前はもうそろそろ寝ないとダメだ」 「ええー!ユキくん寝ちゃうの…?」 鳥居がユキに抱きついてイヤイヤ、と首を振る。ユキは困ったように鳥居の頭をよしよしと撫でた。 「僕、眠たいの」 「えぇ、ユキくん…!」 「明日…遊ぼぉ…?」 なんだか鳥居の方が子供に見えてきたんだけど。 鳥居は渋々諦めた様子で、ユキに手を振り「おやすみ」と言っていた。ユキも手を振って俺と一緒に寝室に行き、ベッドに入る。 ユキの方を向きながら俺も一度目を閉じる。すごい眠れそうなのに、まだ寝てはいけないと、やる事を思い出して嫌になる。 「命、寝る?」 「まだ」 「でも、命、眠たい…」 俺の瞼に暖かい小さい手がフワリと触れる。目を開けるとユキが心配そうに俺を見るから小さく笑ってみせる。 「ユキこそ、眠たいんだろ?早く寝ろ」 「命も、早く、寝んねするの」 「…ユキが寝たのを見てから俺も寝るよ」 小さい子供はあんまり好きじゃねえのに、何でこんな優しく話してんのか。いつもならそんな言葉も無視してるはずだ。 「じゃあ僕、寝る」 「おお、そしたら俺も寝る」 俺の胸に顔を擦り寄せて目を閉じたユキを柔く抱きしめる。 「命、ぽかぽかだね」 「ユキの方が温かいよ」 こうして、人と近くにいると胸辺りがふんわりと温かくなるんだよな。 心地よさを感じて、ユキもそうであったらいいと思いながら、ポンポンと優しくユキの背中を撫でた。

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