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第35話
鳥居が家に泊まってから5日が過ぎたある日。
今日も家でのんびりと過ごしていると突然俺の携帯が音をあげた。画面を確認すると早河からの電話でだった。
「はい」
「おう。お前、どうするつもりだよ」
「は?何が?」
「今度の会議」
「…忘れてた」
そうだ、1泊2日の会議、カレンダーを見るとそれは3日後に行われる。
「どうしよ」
「早くユキくんに相談しろ。日帰りにするにしても、長い間一人にするんだ」
「…わかったよ」
重たい気持ちで電話を切りソファーに座り、またあのDVDを見るユキの背中をジーっと見る。
一人が嫌いなユキを置いて1泊なんて出来ないし、やっぱり日帰りにするしかない。それでも長い間一人にさせるし…、最早休みたいという気持ちが頭を埋め尽くした。けれど、そんなこと出来るわけがなく。
「ユキ、話があるんだけど」
「お話…?なぁに…?」
不安そうに聞いてくるユキに心の底から申し訳なくなる。
それ程までにユキと言う存在が俺の中で"大切"になってしまっていることに気付いて、少しだけ怖いと思ってしまった。
「この日、仕事で家にいないんだ。」
カレンダーの数字を指差して見せる。そしたらユキは顔をあからさまに曇らせて小さく頷いた。
「で、その仕事本当はこの日までやらなくちゃいけなくて」
ひとつ横に指を動かしてみせる。ユキはどう言うことかわからないようで首を少し傾げていて…何だかその先の言葉が言いにくい。
「えーっと、お泊まりしなきゃいけねえの、俺」
「え…?帰ってこない、の…?」
「帰ってくるけど、それはこの日の夕方になる」
そう言えば目に涙を大量に浮かべ泣かないようにと唇を噛んだり尖らせたりしだしたユキにやはり、罪悪感しか湧いてこない。
「もし、ユキが嫌なら俺はこの日の夜、帰ってこれる」
指を一個横に戻してみるけれど、それでも涙は引かなくて、ついには溢れだし、泣き出した。
「命っ……ひっ…く…ぅぁ…」
「泣くなって、帰ってくるって言ってんだろ。」
「でも、僕…ひとりっ」
「この日、帰ってくるから、それまで鳥居と遊んでてくんねえかな」
「…夕、くんと?」
「そう、そうしたら寂しくないだろ?」
それでもユキは納得いかないのか曇った顔で涙を流し続ける。どうしたらいいのか、さすがにわからなくなって、とりあえずユキを抱っこし膝の上に向き合うように座らせてその涙を親指で拭う。
そうしていると、ユキがさっき自分で噛んでいたせいでいつもより赤くぷっくらとしている唇が目に入り、途端体に緊張が走る。
「命ぉ?」
「早く泣き止め」
「…でもぉ……っ、うぅ…」
何故か落ち着かない。だんだんと熱くなってきた体。堪らずユキの頬に唇を寄せキスをして、それから舌で涙を掬いとる。塩っぱいな…そう思っていると、ユキが驚いた顔で俺を見た。
「泣き止んだか」
「ちゅーした、命、僕の頬っぺ、ちゅーして、ぺろってしたの」
「…………………」
「僕も命の頬っぺ、ちゅーしたい」
子供の考えは俺にはあまり理解出来ない。ユキの場合だってそうだ。何でそうなる?と思い、無意識に眉間にシワが寄ってしまう。それが嫌だったのかユキは体を強ばらせた。
「怒る…?」
「怒らない…けど」
そう言うと安心したのか頬を緩ませて、そして、俺の頬に唇を寄せ、ちゅっと小さな音を鳴らしキスをした。
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