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第36話

機嫌が良くなったらしいユキはいつまでやるんだ?ってくらいに俺にキスしてきて「そろそろやめろ」とそれを止めると満足したようににっこり笑う。 「で、どうすんの」 「え…?」 「俺、夜中に帰ってきた方がいい?」 「…うん、ちゃんと夕くんと…いい子してる…」 また少しシュンとして声がだんだん小さくなっていく。 「ああ、ごめんな」 「ううん、大丈夫なの」 「ありがとう」 ユキを抱き締めてとりあえず一安心。明日にでも鳥居に頼まないとな…と思いながら、もう夜の9時だから早く風呂に入ってユキを寝かせないと。 「ユキ、風呂入ろうか」 「…うん」 俺から離れようとしないユキをそのまま抱っこして、着替えを用意し、風呂に向かった。 「もうやだ、出るのっ」と言うユキを何とかなだめ、浴槽に浸からせる。頬を膨らませ拗ねるユキに「じゃあもう勝手にしろよ」と冷たく言うと、驚いた顔をして俺の胸に飛び込んでくる。 「ごめん、なさい」 「別に怒ってない」 「僕のこと、嫌になるの、ダメなの」 「…じゃあ、俺の言うことちゃんと聞いて」 「はい」 別に、普段から俺の言うことを聞いてくれないという訳では無い。それは俺も、多分ユキ自身もそう思ってる。 「風邪ひいてしんどい思いしたくないなら、ちゃんと温まること」 「…うん」 「高い熱が出たり、頭痛くなったりしたら嫌だろ?」 「…やだ」 「な?だからお湯に浸かって30秒は肩まで浸かるんだ」 「ちゃんと、するの」 「いい子だな」 ユキと一緒に30秒を数えて、途中数字がわからなくなって混乱してるユキや最後まで言えた時の嬉しそうな顔にほっこりとして、そうして2人で風呂から出た。 リビングでユキの髪を乾かす。綺麗でサラサラとしている髪が指に絡んで少しくすぐったい。 「僕、命の髪、乾かしたい」 「…やるか?」 「やるー!」 ユキの乾いた髪からドライヤーを離し、そのままユキの手に渡す。ソファーにユキを座らせ、俺は下のフローリングに座りユキが乾かしやすいようにしてやる。 「命の髪、サラサラしてるね」 「ユキの方がサラサラしてるし、綺麗だよ」 「ふふっ」 ユキが後ろで笑ってて俺は気にせず点けっぱなしだったテレビを眺めていた。 「乾いた……?」 「んー…おう、乾いてる」 少しして髪も乾き、ユキに「ありがとう」と頭を撫でドライヤーを元の場所に片付けて、ユキが待ってるソファーにまた戻る。 「眠くないか?」 「ちょっと…だけ…」 ちょっと、と言う割りには目がちゃんと開いていない。 ユキを早く寝かせてやろうとベッドに二人で入って、今日はもう洗濯物もいいや。明日にしよう、と俺も眠るために目を閉じる。 「命…?」 「ん?」 俺が返事を返したっきりユキは何も話さなくなって、閉じていた目を開けユキを見る。 「ユキ?寝たのか?」 「ん、ふふっ」 「起きてんのかよ。で?何笑ってんだお前」 「命、ギューして」 いつもユキが寝てからしてやってること。ユキは暖かいから抱き締めてると安心して眠れる。 拒否なんてするはずがなく、ユキを抱きしめた。 「ふふっ、明日お家、いる?」 「いや、明日は買い物行こうと思う。ほら、この前鳥居が靴くれただろ?あれ履いて一緒に出掛けるぞ」 鳥居が泊まりに来た次の日に仕事の合間を縫ってあいつはユキに靴を買ってきてくれた。ユキはそれを履いてどこかに行きたいようで靴を見てはウズウズしていたのを知ってる。 出掛けると聞いて、嬉そうに俺を見上げてくるユキが可愛くて頭をそっと撫でてやった。 「お出掛け、車?」 「そうだな、車で大きい所行くか。」 大きい所がユキにはよくわからないみたいだ。 何度も「スーパー?」と聞いてくるから、首を振って「もっと大きい所」と教えてやる。ユキは頭の中で想像をしているようで、難しい顔をしている。 「だから、今日は早く寝ような」 そう言うとやっと難しい顔じゃなく、柔らかいいつもの表情になり、それから10分もすれば目を閉じて俺もユキも、スヤスヤと眠りに落ちていた。

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