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第38話

本屋に入るとユキがキョロキョロと周りを見て、とある所でビシッと固まった。 その視線を辿れば可愛らしいくまの絵が描かれてある絵本に辿り着く。そっちに足を運んでその絵本を手に取りユキに見せてやるとユキは嬉しそうにページをペラリとめくった。 「くまさん…」 どうやらこの絵本が気に入ったらしい。ならこれを買ってやろう。 「ユキが暇なときに読む本買ってやる。」 「本も…?」 「ああ、このくまの本と、他は何がいい?」 仕事をしてるときはどうしても構ってやることが出来ないから、せめてものブレゼント。ユキは絵本コーナーを見て回って「これ…」と遠慮がちに一冊の本を俺に渡してきた。 「よし、じゃあこれ買うか。」 絵本二冊をレジに持っていき会計を済まして今度は俺がその袋を持つ。 「命は…?本、買わないの…?」 「おう、ユキの本が買いたかったからな」 何だか泣きそうになっているユキは、嬉しいのか、悲しいのか、俺にはわからないけどでもきっと後者ではないと思う。 「次はどこ行くの…?」 「あとはDVD見に行くよ」 そろそろ疲れてきた様でユキの歩くペースが落ちていく。 「抱っこするか?」 「僕、歩く…」 そうか、ならもう少しゆっくり歩いてやらないと。こんな事、今まで俺の隣に居た奴らに対してもしたことはない。ユキが特別だという自覚が全くない訳では無い。けれどそれに気付いてしまう事はいけない気がして、何も考えないようにその事実から視線を逸らした。 「命、命っ」 「あ、え…何?」 ぼーっとしている間に店に着いていて、ユキが不思議そうに俺を見上げていた。 「ごめんごめん」 「ううん、ごめん、言わなくていいの」 店にはいろんなDVDがあって、ユキはそれを指さす。 「あれ、買うの…?」 「そう。ユキの好きなの選んでいいよ」 そう言うと首をこてんと傾げて「わからない」と言う。 そりゃあそうか。ユキは映画やアニメを知らない。だからどれが面白くて、どれが怖くてなんて判断出来るわけがない。 「じゃあこれは?」 「これ、可愛い…!」 DVDのパッケージを見せて、ユキが見たいと言ったやつを4枚ほど買った。それを選ぶのには30分以上かかったけれど、面倒臭いとか、早くしろよとか、そんなことは全く思わなくて不思議だ。 兎に角、これでユキが暇なときに時間を潰せるアイテムが出来た。明後日の俺の遅く帰ってくる日もこれ見て笑っていてくれたらいいけど。 「買い物…終わった…?」 「終わった。家に食う物いっぱいあるし、そろそろ帰るか」 「あ、あの、僕……」 「ん?何か欲しい物ある?」 そう言えばビクッ!と大袈裟に反応したユキ。それからオドオドして少し震えだして。どうやら図星だったようだ。 「…僕、お絵描き、したい」 「お絵描き?じゃあスケッチブックと色鉛筆買うか」 コクリ、小さく頷いて「いいの?」と見上げてくるユキの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。 「今日はユキの欲しい物買ってやるよ」 ユキは今まで欲しい物を言ったことなんて無いんだろう。 欲しい物一つ口にするのにあんなにオドオドして、買ってやる。と言えばとても嬉しそうに笑うんだ。 それにしても…やっぱりこいつは14才の癖に求める物があまりにも子供過ぎる。この年になれば普通ゲームとかじゃねえのか?そこら辺は俺もあんまり知らないけど。 大人になるにつれて、そういう部分もちゃんと成長すればいいなと思った。

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