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第40話

どれくらい時間が経ったのだろうか。「出来た…」とユキが小さく声を漏らすのを聞いて「見ていいか?」と一応聞いてみる。少し迷ってからコクリ、ユキが頷いたのを確認して、テーブルの上に広がるスケッチブックを手に取った。 「お前、絵上手いんだな」 「…僕…上手…?」 「おう、これ、もしかしてユキ?それと…これは俺?」 ユキと思われる少年と手を繋ぐ俺と思わしき男。 「そうなの、僕と…命…」 「俺のことも描いてくれたのか。ありがとな」 「えへへ」 照れたように顔を少しだけ赤くして頬を両手で押さえるその姿は可愛らしくて頬が緩む。 「お絵描き、楽しいの」 「楽しいならよかった。…ってもうこんな時間かよ。腹へってるだろ?」 時計を見れば午後1時。 ユキは腹を擦って口で「すいたの」と言った。 「待ってろ、作ってくる」 「お昼、命も…食べる」 「だから俺は……はぁ、じゃあちょっとだけな。」 俺はいい、と言おうとしたら悲しそうに顔を歪めるから、そんなの食うしかねえじゃん。キッチンに行って何作ろうかなと考えながら冷蔵庫の中を見た。 「いただきます」 「いただきます」 ユキがいただきますをした後、俺も遅れていただきますをした。 「ユキ、足バタバタしない」 「ごめん、なさい」 若干嬉しそうだった顔が、注意をしたことでシュンとなる。 簡単に作った肉と野菜を炒めたおかずと、魚にご飯に味噌汁。ずずっと味噌汁を啜ったユキは「美味しい」と顔を綻ばせた。 そのタイミングで俺は食べ終わり、「ごちそうさま」と言う。 「ええ!命…もう食べた…」 「おう、ちょっとだからな、ユキはちゃんとゆっくり食えよ」 「うん」 この間、ユキにゆっくり食べるように言ってから、ユキはちゃんと噛んでゆっくり食べるようになった。落ち着いて味わって食べる方が飯は上手い。 けれどよく噛む分、お腹がいっばいになってユキの食べる量は少なくなる。 「もう食べれない?」 「…ううん、ちょっと、休憩するの」 「そうか。ゆっくりでいいから、無理すんなよ」 ユキを焦らせないように、お茶を飲んでふぅ、と息を吐く。 「命、命」 「ん?」 ユキがうるうるとした目で俺を見つめる。 その手にある箸はもう止まっていて、そろそろ腹がいっぱいで食べれなくなったのか、と察する。 「あの、僕…お腹…」 「お腹いっぱいになったか?」 「う、うん」 「もう食べれない?」 「た、食べれるのっ、でも…っ」 多分、ご飯を残すのはいけない事だとわかっていて、だからなかなか言い出せない。そしてそれを言ってしまうと俺が怒るんじゃないかと不安なんだろう。 「お腹いっぱいなら、もうごちそうさましな。残しても、俺が食べるし、大丈夫だよ」 「怒らないの…?」 「怒らねえよ。お腹いっぱいなのに無理矢理食べてお腹痛くなられた方が困る」 「うん」 「無理しないでいい。これだけじゃなくて、他のことも。」 そう言うとユキは驚いたような表情になり、間抜けに口をぽかんと開ける。 「僕、無理、しない」 「そう。無理も我慢もしなくていい」 「う、うん」 ユキがおずおずと手を合わせて「ごちそうさま」と言った。

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