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第50話 命side
命ぉ、と呼ばれた気がして目を開けた。
そしたらさっきまでここにいたユキがいなくなっていて、寝室のドアが開いている。何かあったのか?と怠い体を無理矢理起こしてリビングに出る。
そしたらトイレの方からユキの泣き声が聞こえてきて、慌ててそこに行くとユキの履いていたズボンとモコモコの靴下が濡れている。
「…ぅえ…っ…ひっく……」
「え、何お前……」
もしかして、漏らしたの?
泣いているユキをとりあえず落ち着かせ、風呂に入れようと抱き上げようと思ったが今はスーツを着ているんだった。
「ちょっと待ってろ」
ヒックヒックとしゃくりを続けるユキを少し置いて、寝室に戻りスーツを脱いでベッドに投げた。それからパンツ一枚という格好でユキと俺の分の着替えを先に風呂場の前に用意し、そしてやっとユキを迎えにいき、抱っこをし風呂場で服を脱がせる。
「ひ…っ……お漏らし…お漏らし……」
「大丈夫だから落ち着け」
「僕、僕………」
「トイレのところ拭いてくるから少し待ってろ」
風呂が嫌いだと言うが、あのまま水溜まりを放置していたら臭いと、何より何も知らない鳥居がトイレに行こうとして足を突っ込んだらまた面倒だ。
「僕、一人……嫌だ……」
「ここは開けとくしすぐに戻ってくるから、ここにいろ、わかった?」
「……わか、た」
雑巾をもって処理をしに行く。
なんでこのタイミングでお漏らしするかな。俺が帰ってきて安心したとか?いや、それは自意識過剰すぎるな。
処理を終えて風呂場に戻ると涙目でふるふる震えるユキの姿。俺も申し訳程度で着ていた下着を脱いでユキと一緒にシャワーを浴びる。
「ほら、ちゃんと洗え」
「…僕…悪い子……怒る…?」
「怒らねえよ」
「ごめんなさい…」
怒らないっつってんのに何を謝るんだか。大丈夫だと言う意味を込めてユキの頭をぽんぽんと撫でた。
タオルでユキの体を拭く。
まだ泣きそうな顔をしているユキは自分で服を着ようとしなくて面倒臭い。
「服着ろ」
「……………」
口を開けたら涙が出てきそうなのか、ムギュッときつく口を閉じている。
「ユキ、早く」
「…………」
「はぁ。」
俺の溜息で体を揺らし、やっと服に手を伸ばして着替えていくユキ。俺もさっさと服を着て、ユキを待っていた。
「おいで」
着替え終わったユキの前にしゃがみこんで腕を広げる。ユキはとてとて近づいてきて腕の中にすっぽり納まった。そのまま抱き上げてリビングに戻れば、まだ寝ている鳥居がいる。ユキのことで世話かけたしそのまま寝かしてやるか。と放置しユキをソファー下ろした。
「飯作るからテレビでも見てろ」
「命ぉ」
「ん?」
「僕、独りぼっち、やだ」
立ち上がろうとしたのに、俺から離れなくなったユキ。「ご飯は?」と聞いても「いらない」と首をふる。
仕方なくユキの隣に座ると俺の膝の上に向き合って座り、胸に頬を当てて目を閉じた。
「そんなにショックだったか」
まあ14歳でお漏らしなんてあんまり聞かねえもんなぁ。本人はそれは知らないだろうけど、それなりにショックなのかもしれない。
「僕、お兄さん、なりたい」
「お兄さん?」
「何でも出来るように、なりたい」
静かに涙を流しだしたユキの背中を撫でる。幼稚帰りって言うやつか?いつも以上に甘えるこいつの精神は今、どういう状態なのか、俺は知らないといけないのかもしれない。
「明日俺と出掛けようか」
「お出掛け…?」
「そう、お前のことをきっと理解してくれる奴の所に一緒に行こう」
こういった事はあいつを頼るのが一番いい。俺もあいつに助けてもらったから。
「今日は散歩にでもいくか?」
「お散歩…?」
少しだけ気分は良くなったのか泣くのをやめて、口の端をクイッと上にあげる。
「ああ、公園にでもいこう」
「行く…!」
今はユキが少しでも元気になってくれればいいや。
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