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第54話
朝早く起きてあくびを零す。
俺と一緒にユキも起きて俺と一緒にベッドから抜ける。
顔だけ洗い、服も着替えないで寝癖も直さないまま、そのまま朝御飯を食べ俺はコーヒーを飲み目を覚まそうと頑張る。ユキはとっくに目が覚めたみたいで朝からやっているアニメを見て楽しそうにしている。
「…何時に出るかなぁ」
あいつは何時でもあそこにいるし、正直いつでもいいんだけど、俺はゆっくり行きたい。何より眠い…くぁぁっと何回目になるあくびをして軽く目を閉じる。
「命、命、ブーブーしてる!」
「んぁ…ああ。ありがとな」
ユキがそこら辺においていた俺の携帯を持ってきてくれて、長い間振動しているそれの通話ボタンを押して耳に当てた。
「はい」
「み・こ・とっ」
「…何だ」
「相変わらず冷たぁい、何時に来るの?」
電話相手はトラ。
そうだなぁ、何時に行くかは今悩んでたところなんだけど…。
「何時ごろが都合いい?」
「私はいつでもいいけど、誰か連れてくるの?」
「ああ。そいつの話聞いてやってほしい、それから俺にどうしたらいいかを教えてくれ」
「…ふぅん、わかったわ。じゃあそうねぇ…10時に来てくれる?」
「わかった」
「待ってるわ!大好きよ!」
電話を切って携帯をテーブルに置くとユキが不安そうな顔でこっちを見ているのに気が付いた。
「どうした?」
「とら、さん?」
「そうそう、今のはトラ」
ユキはやっぱりトラのことを不安がっているようで、いつもより悲しそうな寂しそうな目をしていた。
約束してた時間の20分前になり車でトラのもとに向かう。ユキは緊張しているのかさっきから何も話さないで膝の上で拳を作っていた。
「怖い?」
「とらさん…初めて…僕、ドキドキ…」
ふるふると小さく震えているユキの拳のを片手で覆う、そうすればビックリしたのか、俺を見ているのを感じる。運転中でユキを見れないのが少し残念。
「本当に優しいよ、ユキの話もたくさん聞いてくれる、思ったこと全部話していいんだ」
「僕、悪いこと言っても、怒らない…?」
「怒らない。大丈夫」
そう言えば深呼吸して背筋を伸ばし前を向く。
「僕、お話…とらさん…」
さっきよりは少し安心できたみたい。そしてちょうどトラのいる、独特な雰囲気をした建物に着いた。
「…ここ……?」
「ここ。見た目はボロいけど怖いところじゃないよ」
少し古い建物、薄暗い雰囲気のそこはトラの経営してる病院。
ユキと中に入って電気の点いているトラがいるであろう部屋を覗く。
「トラ────っうわ!!」
「やぁーん!命!会いたかったぁ!」
「ひっ!」
部屋に入りトラの名前を呼んだ途端、体に衝撃。ユキは驚いて小さな悲鳴をあげた。
「もう!全然顔見せないんだからぁ!」
「お、い…、揺らす、な」
「ああ、ごめんごめん!って何この子ー!あーん可愛い!食べちゃいたぁい!」
「…や…ぁ…う……み、ことっ」
ユキは俺の後ろに隠れてトラから逃げている。トラはそれを見て落ち着いたのか、深呼吸をして優しい笑顔を見せ、ユキの目線と同じになるように座り込む。
「初めまして、私はトラ、よろしくね?」
「…とらさん…僕…僕…ユキ……」
ユキは俺の後ろからちょろっと顔を出して挨拶をした。トラはそれが嬉しかったのかユキの頭をくしゃりと撫でる。それでトラが優しい奴だとわかったユキは疑問に思ったことを素直に口にした。
「…とらさん……女の子…?男の子…?」
「私は男の子だけど…心は女の子なの!」
「じゃあ…女の子……?」
「そう、ユキくんは優しいのね」
そう、トラは歴とした男である。綺麗な言葉を使うトラ。こんな話し方をするのは女になりたい。だけではないのを俺は知っている。
そしてトラはこれもまた歴とした医者であり、外科の医師でもあって精神科の医師でもある。そして本人曰くかなりの腕前らしい。
見かけは若い顔の整った医師だろうが実際の年齢はよくわからない。
俺達のような人間はなかなか普通の病院に行けない、だからトラに診てもらうことが多いのだ。
「じゃあ私はユキくんと話をして、そこからあんたにアドバイスをあげればいいのね?」
「ああ。何がこいつを傷つけるのか、わかんねえから」
「あんた冷たいもんねー!じゃあユキくん、私とお話ししましょ?私ね、ユキくんとお友達になりたいの!だからユキくんのこと教えてくれないかしら」
そう言いながら奥のソファーのあるところへ歩いていくユキとトラ。
俺はこの部屋の隅にある椅子に座ってあいつらの話が終わるのを待っていた。
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