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第55話

どれくらいたっただろうか。短かったかと言われればそう思うし、長かったかと言われてもそう思う。 時折ユキとトラの笑い声が聞こえてきたり、ユキが泣いたのか鼻を啜る音も聞こえてきた。 ユキとトラが手を繋ぎながら俺の所に来て、ユキは俺に飛びついてきた。 「ユキくん、とってもいい子だったわよー!じゃあ、ユキくんちょっと待っててくれる?今度はこのバカにお話があるの」 「さっきの、僕の、シー!だよ…?」 「わかってるわ、秘密ね」 そんな会話を目の前でされちゃ俺も気になっちまうよ。今度はユキが俺のいた椅子に座り、俺はユキのいたソファーに座った。 「あんた、面倒臭がりじゃなかったっけ?それも極度の!」 「それが何だよ」 「あの子はあんたからしたら面倒臭いって思うんじゃないの?…でも、それは初めだけ。今は可愛いー!ってベタベタしてるの」 「そりゃあ初めは面倒だったよ。早河が助けられた命を…とかいつも言うから拾っただけだったし。」 「でも今は助けてあげたいって思ってるんでしょう?その証拠に私の所に連れて来た」 「ああ」 だって、ユキが可哀想に思えた。俺と同じように虐待されて、今では俺はその傷はほとんど消えているけれど、ユキには真新しい傷が心に深く刻みつけられていること。見ていてこっちが悲しくなる。 「あんたの傷もまだ治ってないわよ」 「俺はいいから、どうしたらいいのか教えてくれ。全くわかんねぇんだよ…」 俺のことは今はどうでもいい。ユキを助けてやりたい。心の傷をすっかり綺麗に治すなんてこと出来ないけれど、少しでも癒してやれるならそうしてやりたいと思う。 俺の中で少しずつユキが大切になっていってるんだ。 「じゃあ話すわ。まず、ユキくんの嫌いなこと教えてもらったの。一番嫌いなのは独りぼっちだって、あんたと一緒」 「…で?」 「一人で何かするのはあまり好きじゃないって。だからあんたはユキくんの傍にいつもいてあげるの」 「ああ」 「あの子はあんたのことを何も知らないから、けどあんたを知ってる私としては、ユキくんとあんたが一緒に暮らしてるって言うことが正直怖いわね。あんた何しでかすかわからないから」 そう言ったトラは厳しい表情をしている。そりゃそうだよなぁ、一応俺、ヤクザだし。 「…でも、あの子はあんたがいいみたい。私と話してるのに命は?命は?って言ってくるの。きっともう、ユキくんはあんたがいないとダメなんじゃないかしら」 「……バカじゃねえの」 そんなことはないって。きっと俺じゃなくても、鳥居や早河でも、あいつは隣に誰かがいればきっと安心出来るんだ。俺だけが特別みたいな…そういうのはきっと、ない。 「あら命、怖いの?」 「あ…?」 「また捨てられるんじゃないかって、怖いの?」 無意識に手が震えていた。トラが俯く俺の隣に座って背中を撫でてくる、捨てられるのが怖い。誰だってそうだろ、俺はあんな経験2度としたくねえ。 「大丈夫よ、ユキくんはあんたを一人にしないし、あんたもユキくんを一人にしない。」 「…ああ」 「私と約束しましょ、ユキくんを一人にしないって。ユキくんとも約束したの、あんたを一人にしないって。」 ピタリと震えが止まって、頭にポスリ、軽い衝撃。俯いてた顔を上げるといつの間にここにいたのか、ユキが悲しそうなをして顔をして俺を見下ろし、頭を撫でてくる。 「命、大丈夫…」 「ユキ」 「僕も、大丈夫」 そう言って、小さな体に抱き締められた。

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