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第56話
こんな小さい子供に大丈夫って抱きしめられる俺って…。でもそれがすごく温かくて安心する。そっとユキを抱きしめ返すと、なぜかトラが俺たちを抱きしめた。
「私も私もー!」
「トラさん、痛い…」
「あらごめんね?ユキくんが可愛いから思わず力が入っちゃったわっ!」
星が飛びそうなウインクをユキに向けてしたトラ。ユキはそれを真似しようとして両目を閉じてる。
「ふふっ…片目だけ閉じるの!」
「片目だけ?」
そう言ってもう一回挑戦するユキだけれど、どうしても両目になっている。それを見てトラはにやにやと笑って「可愛いー!」とユキの頬をふにふに摘まんでいた。
「僕、それ出来ないの…」
「落ち込むことじゃないわよ!」
「でも、トラさん出来る…」
「大丈夫よぉ!命も出来ないから!」
トラが俺を見てニヤニヤしている。ユキは小さく首を傾げて「やって見て!」って言うけど…
「俺も両目閉じちゃうから無理」
っていうか出来るのは出来るけれど、変顔をしてるようになるからあれはしたくない。
「ウインクはね、出来る人と出来ない人がいるのよ」
俺が出来ないことに安心したのかユキは「そうなんだあ!」にこにこ笑ってウインクの練習をやめた。
それから、トラから2、3個注意を受けて俺達は家に帰ることに。
「トラさん、優しいかったの…」
「な?トラは優しいんだよ、本当に」
俺が親父に助けてもらって一番に連れてきてもらった所はトラのところだった。その時は体の傷は何もないかどうかってのを見てもらう予定だった。
その時からトラは本当に優しくて、それが苦しいくらいに嬉しくて、俺は初めてトラに会った日、トラの前で泣いてしまった。
そしたらトラが俺のことを抱きしめてくれた。俺はなぜか自分のことを話したくなってトラにポツポツと話をした。
話が終わってすぐ、トラが「頑張ったね。」と言ってくれたんだ。
そう言われたときは胸に詰まってた何かが溢れて、泣き疲れて寝てしまったくらいだ。トラはそんな俺をずっと抱きしめていてくれた。目が覚めたら「起きたー?」って俺にホットミルクをくれたりして。
本当に────
「トラさん、好き」
「ああ、俺もトラのことは好きだ」
父親……というより、母親のような存在だ。
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