58 / 240
第58話
「えー…っとぉ」
赤石が言いにくそうに俯きながら話し出す。
「若に女ができたかもしれない」
「……は?」
もはや仕事のことでも無かったらしい。頭を抱えたくなったがユキが膝の上にいたのでユキの髪にポスッと顔を埋めた。
「命…?」
「悪いユキ…で?それが何だよ」
そしたら今度は中尾がテーブルを挟んで俺に大声で訴えてくる。
「これは緊急事態だ!!」
「だから、何が」
「若に女だぞ!?あの若にだぞ!?仕事の時の若は鬼だ!!そしてとても格好良い!!そんな若に相応しい女なんてなかなかいるはずがない!!」
「……で?」
「若の学校に偵察に行こうと思う」
「勝手にしろ俺を巻き込むな帰れ!!」
ユキをソファーに移動させ中尾の後ろ襟を掴み、引き摺って玄関の外に出す。その後に大人しくついて来た八田と赤石は「だから言ったじゃーん!みっちゃんにそんな話しても怒られるだけだよって」「だって気になるだろ」なんて会話をしていた。
「お前らは極力ここに来るな、用があるなら電話しろ」
「みっちゃん、俺も?」
「お前も」
「でも俺、ユキくんにまた会いに来たい」
「…ならその時は一人で来い」
「やったあ!」
ルンルンで帰る赤石に連れて、2人もやっと帰って行った。
確か赤石には弟がいたし、きっとユキと仲良くなってくれる。ユキをリビングに待たせたままだったことを思い出しながら、そんなことを思った。
リビングに帰るとユキがソファーに座ってテレビを見ていた。
「ごめんな」
「命の、お友達…?」
ユキの隣に座って、抱き寄せる。
「そう…赤石いただろ?あいつがユキにまた会いたいって」
「本当…?」
「本当。赤石には弟がいてな、ちょうどユキくらいの」
「そうなの…?」
「ああ。仲良くなれたらいいな」
「うん」
ユキはニコッと微笑んだ。あまりにそれが可愛くて思わずぎゅっと抱き締める。
「あのね、命、僕のお話、聞いて…?」
「あ?…おう」
どうしてこのタイミングで自分の話をしようと思ったのかはわからないが、頷いて点けていたテレビを消した。
「…あのね、お母さんずっと、僕に意地悪…」
ユキの声が震えていて、こういう時ってどうしてやればいいんだっけ…?わからないままユキの背中を撫でるしかなかった。
ともだちにシェアしよう!