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第60話 命side

ユキは話を終えて、「だから、お風呂は嫌…」と俺の肩に寄りかかりながらポツリと呟いた。 「辛かったな」 「うん…でも、僕、命に会えたから…死んじゃう、しなくて…よかった」 「ああ。俺もお前が生きててくれて嬉しいよ」 そう言えばユキが嬉しそうに笑うから俺もつられるように笑う。 途中何度も泣きそうになるのを我慢していて、その度に頭を撫でたり抱き締めてやった。それが俺なりの慰め方。でもやっぱり俺は人を励ましたり、慰めたりするのは不得意だからこれが正解なのかもわからない。 「命、優しい…」 「そうか?」 「うん。僕、好き!」 「俺もユキが好きだよ」 少しでもユキが安心して暮らせるなら、ずっとここにいればいいと思った。 そんな時、突然ユキが顔を上げて俺をじっと見る。 「この前、命ちゅーしてくれた」 「え、あ、そうだな」 「ちゅーして…?」 唐突に小首を傾げそんなことを言ってくる。この前はユキが泣いたから可愛さのあまりしただけであって、今はその…泣きそうだけど泣いてはないし、だから、あの………。 ───まあ、するけど。 前と同じユキの頬に唇を当てる。そうすればユキはふわり笑って俺の頬にも同じようにキスをする。何だこれ。 「あのな、こういうのは好きな人にやるもんなんだよ」 「だから、僕、命にちゅーする」 「…えっと、そうじゃなくて…」 困った。ユキの好きな人リストには俺が入っている、このままじゃ鳥居も好きだっつってキスをしかねない。 「その人を見てたらドキドキするとか、恥ずかしくなっちゃったりとか…そういう相手にするものなの」 「僕、命見てたらドキドキする」 「………………」 「命、ちゅー」 それはユキの勘違いだと俺はわかっている。 そして俺は…自分自身の気持ちが、ただ小さいユキが可愛いから好き。というものじゃないとわかっている。 だからこれはいけないということも。…なのに堪らない、堪らなくなって今度は頬じゃなくてユキの唇に──── 「…って、何考えてんの俺」 「命?」 「これは本気でダメだ」 俺のせいでユキに間違った方向に進ませるのはいけない。この俺の気持ちこそ、トラに相談しないといけないのかもしれないと、心の中で思った。

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