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第61話
夜になって飯を食べ、風呂の時間。
ユキは今日も嫌々ながらに風呂に入る。
「風呂でも遊べる物があればな…」
ユキが髪を洗っている間、浴槽に浸かりながら風呂で遊べる物を買ってやるか。と考える。
「命、お風呂で遊ぶの…?」
そんな俺の言葉を拾ってユキがそう聞いてくる。
「俺じゃなくてお前が。風呂で楽しいことがあれば嫌いじゃなくなるかなと思って。」
それにいつまで経っても風呂が嫌いだ、入らない…なんて言ってちゃ好きな相手が出来た時に幻滅されかねない。そう思いながら胸が少し痛んだ。
「ずっと俺と風呂に入るのも無理だし」
「…命、僕とお風呂、やだ…?」
「違う違う。そういうことじゃなくて…」
濡れた髪をかき上げて、どう説明すればいいかを考えていると、ユキがじっと俺を見ていたことに気付いて顔を向ける。
そして、感じた異変。
「…ユキ?」
「…ぅあ…あ……」
「お前、何で勃ってんの…?」
何で勃っているのかがわからない、と焦っているユキにとりあえず深呼吸をさせる。
「髪も洗えただろ、泡流して」
「すー…はぁー…」
俺の言った通りに深呼吸をして髪の毛を洗い流すユキ。
「流せたらすぐ体洗って早くこっちこい。寒くねえか」
「髪の毛アワアワ、ついてない…?」
「ついてない。」
すぐに体を洗って、それから浴槽にポチャンと入ってきたユキ。もう落ち着いたようでそこも元に戻り、眠たいのか薄く目を開けてボーッと前を見る。
「また寝そう?」
「ねむねむ…」
「あー!寝るなって」
寝られては困る。そう思った俺はユキの頭をワシャワシャと撫でて、30秒を数えて風呂から出た。
風呂に上がると携帯に早河から電話が来ていて、急いでかけ直した。
「───はい」
「悪い、風呂に入ってた」
「ああ。いきなりで悪いが…お前そろそろ仕事しろ。ユキくんがいるのはわかるが、こっちにもバカが3人もいて大変なんだ」
確かに、あのバカ3人を1人で纏めるのは大変だ。
「ああ」
「明日から」
「……わかった」
返事をしたら通話はすぐに終わって、肩にかけていたタオルでガシガシ髪を拭いた。
「ユキぃ、俺明日から仕事に行かなきゃいけなくて…」
「お仕事、僕、1人なの…?」
「ちょっと待ってろ」
再び携帯を手に取りトラの携帯に電話を掛ける。
「───はぁい!」
「俺、命」
「わかってるわ、なぁに?」
「俺、明日から仕事」
「あらあら、そうなの気をつけて」
「その間ユキを預かってくんねえか」
トラはあそこが仕事場だし、ユキもトラのことは好きだと言っていた。トラもユキのことを気に入ってくれているし、俺もあいつのことは信頼しているから、トラに預かってもらうのが一番安心出来る。
「いいけど…ユキくんは?それでいいって言ってるの?」
「まだ、聞いてない」
「じゃあユキくんにちゃんと聞いて。それからまた教えてちょうだい」
ブチッと通話を切られてすぐ、ユキに向き直った。
ユキは不思議そうな顔で俺を見上げる。
「ユキ、仕事の時はトラと一緒にいてくれないか」
「トラさん…と?」
「ああ、1人は嫌だろ。鳥居にだって仕事がある。トラのところなら1人にはならないし…」
「お絵描きセット…持っていって、いい?」
「いいぞ、トラのところテレビもあるからDVDも持っていったら見せてくれるんじゃないかな」
「…じゃあ、僕…トラさんといる…」
よし、決まった。
すぐにトラに電話をかけ直し、明日のことを頼んで、まだ乾かしていなかったユキの髪と俺の髪を交代で乾かした。
「明日車で送っていく」
「うん」
「帰りもちゃんと迎えにいくから」
「…うん」
やっぱり少しは嫌なんだろう。ユキの眉はハの字に下げていた。
それからユキに俺の前まで使っていたリュックサックを貸してやった。そこにお絵描きセットやらDVDやらを詰め込んだユキ。そんなに持ってくのかよ……明日はアレ作ってやるけど、入るかどうか、少し心配。
準備を終えたユキは眠たくなったようで、いつもより早めに眠りについた。
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