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第65話

声のした方に顔を向けると、久々に見るそいつの姿に、懐かしい気持ちになる。 「俺、八田君だけだと思ってたから、どうしよう…とりあえず珈琲でいい?」 「俺だけだと思ってたからどうしようってどういうことだよ。」 「八田君には頻繁に会うけど、黒沼君は滅多にないんだもん。おもてなししないと」 そう言った男───カラスは俺にヒラヒラと手を振って「こっちに座りなよ」と整えられた部屋の中心にあるソファーを指指した。そこに遠慮なく座る俺と八田。 「黒沼君はお仕事ずっと休んでたんでしょ?まあ、前の問題は大きかったし、それに殆ど君の手柄だし、しばらくは後片付けになるだろうから、面倒臭がりの君はその間は休むだろうって思ってたけど」 「親父から許可が出たからな」 「───その間に大きな拾い物したみたいだね」 カラスの目がすっと細められ、目の前にはいい匂いのする珈琲の入ったティーカップが置かれた。 茶色のような、吸い込まれる黒のような、そんな色をした珈琲に映るのはいつもより難しい顔をしている自分。 「お前、何でそれを知ってる。」 「そりゃ、情報屋ですから」 「それを誰かに調べろって言われたのか?お前は昔から依頼された事しか調べないだろうが」 「まあ、そうなんだけどね。ほら、俺って黒沼君の事結構お気に入りじゃん?お気に入りのことは調べるでしょう?」 情報屋にプライバシーもクソもねえから、もうこれ以上俺が何を言っても意味が無い。知られた事を忘れさせるのは手間がかかるし、そんなことはしない。 「あの子供もやっかいだね。君そっくり!」 「全く違う」 「いや、虐待を受けていて、ヤクザに助けられた。全く一緒だよ」 「違う。俺なんかとあいつを一緒にするな。」 ユキは俺と同じじゃない。 俺と同じになってはいけない。 「───なあ、そろそろ仕事の話していいか?」 その嫌な空気を切ってくれたのは八田だった。 心臓が締め付けられているかのように、キュッとして痛い。背中には嫌な汗が流れて、俺の手はそれを隠すかのようにカップを取り、その淵に口をつける。 「余計なことは何も言わなくていい。俺が頼んだ事だけ話せ」 「はいはーい。その前にさ、八田君にいい言葉教えてあげる。短気は損気だよ」 「うるせえよ」 口を離して、中の液体を見る。 大丈夫、いつもの面倒臭がりの俺しか、そこには映っていない。 「じゃあ、まず…これが最近ここら辺で出回ってる薬ね」 そうして透明な袋に入れられた薬が目の前に差し出された。

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