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第66話

「これを持ってたのは高校生。て言っても真面目な風貌だったし、これを俺が奪った時心底驚いた顔をしてたから、その子は知らない間にそれを持たされてたんだろうね」 「これを高校生に持たせたってことは、お前を知っている奴が、たまたまお前を見て、焦って高校生に持たせた可能性がある。もしそうなら犯人はお前の存在を知ってる奴に絞れる」 「浅羽の同盟傘下でも俺の事を知ってる奴は少ないよ。大分絞れる。…その中に、予想している犯人の組も存在してる。」 「ほぼ決まりだな」 「けど証拠がまだ無い。今のままじゃ動けないよ。」 カラスは楽しいという感情を態度全体に表す。 俺はまだこの件については詳しくは知らないけれど、何となく、それはあいつらじゃねえのか?と頭の中で目星をつける。 「兎に角、証拠を掴んだらまた連絡するよ」 「頼む」 立ち上がる俺と八田。 先にドアから八田が出て行って、俺も外に出ようとすればそのドアが閉められる。 「何だ」 「黒沼君ってさぁ」 ドアを閉めたのはカラスで、楽しそうに口を三日月に歪ませる。 「大切なものが出来たら、弱くなるね。それも物凄く」 「………………」 「いいの?ヤクザの君が、大切なものなんか作って」 「…お前には関係ない」 「浅羽の組長の為に、その命があるんでしょ?」 トン、と左胸に拳が当てられる。 「小さな子供の為にそれを使うのは、ある意味、裏切りだよ」 「だから、お前に関係ないだろ」 だんだんと憎悪感が溢れてくる。 手を伸ばし、カラスの鼻から下を手で覆う。 「もう二度と話せなくしてやろうか」 そう言うとカラスは目を細めて笑う。 「怖いね、黒沼君は」 「嘘吐け、お前はこんな事で怯んだりしないだろうが」 「ううん、本当だよ。君はその子供のためなら俺なんて躊躇うことなく殺すだろうから。…だから、俺殺されたくないから、子供のことは誰にも言わないであげる。」 ドアを開けたカラスが「またね」と言って手を振る。 外に足を踏み出して「じゃあな」と言えば後ろのドアが閉まり、外で待っていた八田に軽く謝って、元来た道を歩いた。

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