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第73話
そんなことがあった次の日、今日もまた早くに起きて作った弁当をユキに渡す。昨日寝るときに明日もトラのところにいてくれるように頼めば、一昨日とは違って笑顔で頷いてくれた。
「今日お弁当、何…?」
「秘密。ほら飯食って早く服着替えろ。」
トーストにスクランブルエッグにウインナーにトマトっていう簡単なご飯を、心底嬉しそうに食べて、顔を洗い服を着替えたユキは「変、違う…?」って俺の前で一回転して見せた。
「変じゃないよ。今日俺の仕事が終わったらそのまま買い物行こう。アヒル買って…お前のバッグも買わないとな。それお前にはデカいから」
「うん」
俺も身なりを整えて家を出る準備をする。少しの間ユキと別れる。ほんの数時間だけなのにそれが寂しく思えた俺は、ユキもそうであってほしい、といつの間にか願っていて笑える。
「行くか」
「いく…いって、きます……」
リビングに向かってそう言って、そのくせにまた玄関でもいってきますを言うんだろ?
「いってきます…」
思っていた通り、ユキは靴を履き玄関を出る1歩前でそう言った。
今日も昨日と同様、ユキをトラの元に送ってから仕事をして、時間はちょうどお昼時。八田がカップラーメンをすすり、赤石がサンドイッチを食べ、早河と中尾は今はこの部屋にはいない。
「みっちゃぁん、今日もお昼食べないの?俺の特製サンドイッチあげよっか?」
「悪い、いらねえや」
「そう?じゃあ珈琲淹れてあげる!」
「…ありがとう」
ソファーに座りボーッと前を見た。
ユキを離したくない、ユキが離れていかないようにはどうしたらいい。
ボーッとしていると自然とそんなことを考えてしまい思わず溜息を吐く。
早河に昨日貰ったあの資料を、俺はまだ読んでいない。
あれに手を出していいんだろうか。勝手にユキのことを調べた資料を見て、勝手にユキのことを知るという事はずるいことなんじゃないか。と思う。
「みっちゃん、顔怖い!ほらほら珈琲飲んで?」
「…さんきゅ」
「どういたしまして!」
資料のことが頭にちらつく。幹部の部屋にはそれぞれに机があって、勿論引き出しもあり、そこには鍵を掛けれるようになっている。その部分にユキの資料を入れっぱなし。勝手に誰かが読まないように、いつもはする事の無い鍵もきちんと掛けてある。
でも、当たり前だけど、俺は簡単に鍵を開けることが出来て、簡単にユキのことがわかってしまう。
そう思うと同時に俺の中の悪い部分が「弱くなったな」って笑った気がした。
「何?仕事のこと?それともユキくん?」
「あ?あー…」
「何それ、どっち?教えてよ、みっちゃん!」
「んー」
赤石に話すことではない気がして返事を濁らせた。
あの資料は棄てよう。ちゃんと自分の目と、耳で聞こう。俺なら自分の事を勝手に調べられて、知られるのは嫌だ。そしてそれが本当に真実なのかはわからないから。
息を吐いて、情報を遮断するように両手で顔を覆った。
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