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第75話

一通り食材を買い終わってユキの菓子を選んでいるのをじっと見ていた。 「チョコ、クッキー、アメ…」 商品を見ながら欲しいものを口に出して、どれにしようとその中から選んでいる。結局手に取ったのはチョコチップクッキーで、その理由はチョコもクッキーも食べられるかららしい。ホクホクした顔でそれを大切に抱えていた。 そうして買い物が終わって車で帰宅途中、突然ユキが前を怯えたように見て体を小さくさせた。 「どうした?」 「…あの人…あの人……」 信号待ちで止まった俺たちの前を横切っていく男三人。そいつらには俺も見覚えがあった。ユキと初めてあった日、ユキを犯していた奴等だ。ユキはあの日のことは何も話さないから、そんなに気にしてないのかと思っていた。そんなことある筈がないのに。 「…ん…ん…っ」 「ユキ、大丈夫だから。俺もいるだろ?お前のこと、ちゃんと守るから」 「でも…怖い…っ」 「大丈夫。早く家に帰ろう」 早く家に帰ってユキを抱き締めてやりたかった。 家に着くまで、こんなにも早く、早く、と思った事は初めてだ。 震えるユキを車から降ろし、エレベーターに家に駆け込んだ。荷物を放るように置いてからユキを抱きしめる。未だに震えは止まっていない。 「…ふぅ…ん…ん」 ついには泣き出してしまい、俺はそんなユキを抱っこしてソファーに移動し、ユキを抱きしめながら背中を撫でて宥めるしか出来なかった。 男たちに犯された嫌な思い出を俺が塗り替えてやりたい…なんて思ってしまう。 「もう大丈夫だから…」 塗り替えるなんてどうやって?それに負けないくらい楽しい記憶を新しく刻まなきゃいけないんだ。 でも、きっと、俺には出来ない。 自分の傷を癒す方法も知らないのに、そんか俺がユキの心の傷を癒してあげることなんて、出来るはずがない。 暫く時間が経っても泣き止まないユキ。 どうしたらいいのかわからなくて、トラを電話で呼んだ。さっきまでユキの面倒を見ていてくれていたのに来てもらうなんて申し訳なく思ったけれど、「気にしないで」と言って電話を切った。 少ししてピンポーンと音が鳴る。ユキを抱きながら玄関を開けるとトラが優しい顔をして立っていた。 「ユキくん、さっきぶり」 「っ…とらっ…さんっ……んんっ」 トラはユキを俺から取り上げてリビングに入って行く。 「ユキくん、悲しいの?」 「…ん…やだぁ」 「何が嫌?何が怖いの?」 リビングで話す二人を見る。俺はどうしたらいいんだろう。今日はおもちゃもあってユキも楽しく風呂に入ったり、ゆっくり出来ると思っていたのに。 トラと話をするユキ。その二人の姿を見ているとだんだん、言い表すことの出来ないどす黒い感情がふつふつと湧いてくる。 どうして、俺にはそれが出来ないんだ、と。 俺は話し合いでユキを落ち着かせてやるより、原因を決してやる方が得意だ。 「…あいつら、殺すか」 最近は全く味わってなかった高揚感が襲ってくる。 「────命」 一人で悶々としているとトラから低い声て名前を呼ばれた。どうやらユキは泣き止んだようで、どこか一点を見つめボーッとしている。 トラの鋭い目が未だに俺を射抜いていて「何」と返せば「殺気をたてるな」と怒られた。 低いトラの本当の声。考えてることを全てを見抜かれた気分になってイラついて椅子にどっかりと座った。 「あんたの仕事がそういう仕事ってのはわかってる。だからってユキくんの前でもそれじゃダメよ。ユキくんが怖がってあんたのことを嫌いになってもいいの?」 「………………」 「嫌なら、悪いことは考えないの」 その言葉に何も返事する気にはなれなくて、テーブルに伏せる。トラはそんな俺を軽く笑ってまたユキに向き直っていた。

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