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第83話
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仕事が終わってもどうにも帰る気になれなかった。それは昨日言ったことを早速違えてしまうことへの罪悪感のせいだと思う。
幹部室においてあるソファーにゴロンとしばらくずっと寝転がっていると腹の上に赤石が座ってきた。
「重い…」
「一人でソファー使って寝てるみっちゃんが悪いんでしょ?」
「じゃあ座る。退け」
「ダメですぅ、今は俺専用のソファーですぅ」
面倒くせぇ。目の上に腕を持っていって光を遮断した。ユキに何て言おう。今度一週間くらい仕事で帰ってこれないって?
…言える気がしない。
「みっちゃん、寝てるの?泣いてるの?」
「起きてる、泣いてない」
「ふふ」
腹の上で少しだけ跳ねられてほんのちょっとだけ殺意がわいた。
「みっちゃん知ってた?出張の時同じ部屋になるんだよ~」
「…あっそ」
「俺たちだけが付き添いみたいに言われたけど、他の組員がちゃんとついてきてくれるよ。そいつらが夜は若の警護してくれるらしいし、ぐっすり寝れるね」
「そうだな」
正直赤石の言葉には耳を傾けていなかった。
その後も絡んできた赤石を適当に流してやっとこさユキを迎えに行き、帰宅。
「今日楽しかったか?」
「あのね、匠くんがね…」
ユキは以前から匠という高校生と話をしたりしているらしい。
そいつは優しくて面白いやつらしく、可愛いだとか偉いとか言って誉めてくれるんだとユキは嬉しそうに話してきた。
「命は、楽しい…?」
「あー、うん。まあまあだな」
今日は悩んだだけの一日だった。というか楽しいだなんて仕事に対して思ったことは1度もない。
「今日は鳥居が来るぞ」
「夕くん…!」
嬉しそうに跳び跳ねたユキはそのまま俺の胸に飛び込んでくる。抱きしめて苦しいと言うユキを無視して俺はいつどのタイミングでユキにあの事を言うかを考えていた。
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