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第94話
早河の淹れてくれた珈琲を飲みながら資料に目を通した。読む作業は好きだがどうせなら面白い小説なんかを読みたい。
そんなことを思いながら仕事を進めていると幹部室のドアがコンコンとノックされる。早河が誰だと口にして聞こえてきたのは鳥居の騒がしい声。
「しっつれいしますー!」
「何しに来た」
早河が鳥居に目を向ける、鳥居はそれにヘラヘラ笑うだけで何も言わない。そしてそのまま俺の隣に腰かけた。
「命さん~俺に昨日話があったんでしょ~?ごめんなさい、俺寝ちゃったから」
「あー、いい。話ってのはユキのことなんだけど…」
明後日から出張だということを話してその間ユキを見ていてくれねえかっていう頼み事すると鳥居はアチャー!とわざとらしく額に手のひらを当てた。
「ユキくんを見てたいのは山々だけど、ちょうどその時忙しいです…」
「そうか…」
ここはトラに任せるか?でもいい加減にしろとか何とか言われそうだ。そうでなくてもトラには今まで散々迷惑をかけている。
「親父に頼んでみたらどうです~?それかもう一緒につれていくとか」
「…でも」
「親父は俺のことも育ててくれたし、優しいし~!きっとユキくんのことも面倒見てくれますよ~?つれてくってことにしても、ホテルの部屋にいてもらうだけになっちゃうかもしれないけど…」
「…そうだなぁ、」
この話を早河は聞いている筈なのに何も言わない。と言うことは別にそれが悪いことだとは思わないということか。
「じゃあ…ちょっと親父に相談してくる…」
「はーい、いってらっしゃ~い!」
幹部室を出て廊下を歩き着いた親父の部屋の前。名前を告げ失礼しますと言ってから中に入った。
「どうした」
「…あの」
何だか言い難い。親父に子供を預かってくれとかいう組員がどこにいるんだよと思って。
「座れよ」
「はい…」
親父と対にあるソファーに腰を沈め思いきって「あの!」と声を出した。
「今度、俺の出張の間…ユキのこと見ていてくれないですか。…それか俺と一緒にユキをつれていくことを許可してほしいのですが。」
「そうだなぁ。初めて見るやつと居ろって言うのはそのガキが可哀想だ。一緒につれていってやれ」
「…え、いいんですか」
「ああ。」
「ありがとう、ございます…」
そんな簡単に許されると思ってなくてビックリした。それから少し親父と話してから急いで幹部室に戻る。
「早河っ!」
「あ?うるせえ」
「ユキもつれてくことにした!」
「そうか」
早河はどうでもいいと言うように俺の話を流して資料に目をやる。ソファーには寝ている鳥居がいて鳥居には後ででいいやと俺も仕事をしようと頬を叩いた。
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