98 / 240
第98話
向かい合って数秒、誰も何も話さない。スッと鳥居の足が動いてそれに反応するけれど少しだけ遅かった。強烈な足払い、慌てて体勢を直しながら鳥居への反撃を開始する。
「…っ」
鳥居の鼻に拳が掠った。それを気にも止めないで距離を詰めた鳥居は俺の鳩尾に膝をいれようとする。両手で鳩尾を庇いながら鳥居の足を掴み逃げれないところで蹴りをいれた。
「…ハッ」
倒れかけた鳥居はニヤリと笑いその体勢を直しながら斜め下から顎に目掛けて拳を振り上げる。間一髪でそれを避けたが今度は肘。横から流れるようなその動きに一瞬焦りながらも避けて少し低くなっている鳥居の頭に肘を落とした。
衝撃でよろめいた鳥居は俺から距離をとり体勢を整える。
「さっすがですねぇ、もうしんどいや」
「嘘言うなよ」
そう言うと地面を強く蹴りあげその勢いで俺の頭を蹴ろうとする。それを避けると待ってましたと言うように手が伸びてきて頬に拳を一発食らった。
「いって…」
「やっと1発…」
鳥居の呟きは静まる道場によく響いた。
「…ッハ……はぁ…はぁ…負けた、し…」
それからどれくらい経っただろう。大の字で地面に寝転がる鳥居。何度も攻防を繰り返して、結局のとこ俺は勝ったのだが、すごく疲れた。
「しんどい……はぁ、立ちたくない…命さん、強い…」
「まだお前には負けねえよ。…はぁ…戻るわ」
タオルで汗を拭って道場を出る。暑くて上の服を脱いで風呂にでも入るかと廊下を歩くとそこには赤石がいた。
「あっれぇ?みっちゃん稽古でもしてたのー?」
「鳥居と…」
「ええ!!鳥居ずるい!!俺は!?」
「うるせえ、風呂入る」
ブーブー言う赤石を無視して幹部室に一度戻りスーツを持ってから風呂場に向かった。
組員のために用意されている風呂場はでかい。今は誰もいなくて湯船に一人ボーッと浸かる。
明日は何時に出るんだっけ。何を持っていくっけ。考えていると眠たくなってきて壁に寄り掛かりながらウトウトしているとガラッと風呂のドアが開く音、そのすぐ後に鳥居が入ってきた。俺に気づいて手をヒラヒラと振る。
「稽古のあとの風呂って眠たいですよね~」
「ああ」
「あ。結局ユキくんどうしたんです~?」
「親父に相談したら知らねえやつのところに預けられるのはユキが可哀想だって」
「成る程。じゃあ連れていくんですね?」
「ああ」
鳥居も湯船に浸かり歌を歌いだす。
意外とうまくてそれを聞きながら目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!