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第123話

次女さんの名前はなんだっけ。芦屋組のことをまとめてあるファイルを覗いてそれを確認すると、名前は芦屋 茉美(まみ)というらしい。その名前を見ても”ああー、あの人か”なんてことにはならなくて。 「みっちゃんは俺が守るよ…!中尾!お前も!」 「え?何から?全然話聞いてなかった!」 さっきからうるさい二人に周りをうろちょろされてうざったい。てめぇの仕事をしやがれと少し呆れた。 それから赤石にもシロの話をして、今度またユキとシロに会いに行くと鼻息荒く言われ、なんとなく時間を過ごして、少ししたら早河がガタッと椅子をならしながら立ち上がる。 「もう少しで来る。準備しろ」 そして、そう言った。それと殆ど同時に俺と赤石は舌打ちを零す。 早河のいつもより冷めた表情、赤石の笑っていない顔。 「お前ら何もねえのに、なんでそんな顔してんだよ」 「うるせえ」 「そりゃあみっちゃんは俺の大切な人だしぃ?」 赤石は俺が言うのもなんだけど納得できる。早河は?そもそも芦屋がここに来るのが好かないのだろう。眉間に皺が寄っている、それを見て小さく笑う俺に、厳しい目が向けられたことは言うまでもない。 門の前に厳つい車が停まったことが確認されるとすかさず組員達が門を開けその車を中に通した。 例えば、俺達浅羽組が芦屋組より上の立場に居たとしてもそれは親父あってのものだ。俺達が芦屋組の頭や娘たちに頭を下げないのはおかしい。親父と若以外は綺麗に頭を45度下げて顔をあげた。 途端合う視線。 華やかな黄色の着物を着た芦屋の頭の隣にいる女が俺を見て微笑んだ。きっとあいつが次女の茉美なんだろう。 その前に堂々と立っている赤色の着物を着た少し気の強そうな女が長女の美織。 「今日は突然お邪魔して申し訳ない」 「いえ、お待ちしてました。」 芦屋の頭と親父が挨拶を交わす。その様子を見て苛ついたのはきっと俺だけじゃないはずだ。 芦屋組は浅羽組の下についている。その癖に親父に威張った態度をとるのは何だ?地位や権力は俺達の世界ではひどく大切なもの。それを無視しているというわけか。 「───ちょっと、そこの貴方」 親父達の様子を見ていると声をかけられて振り返る、そこには茉美の姿があった。 「ああ、はい。何ですか」 「あたしに付き合ってちょうだい」 厭らしく口を歪めて俺に付き合えなんて言う。助けを求めようと近くにいた八田に視線を飛ばすも「頑張れ」という言葉と手を振られただけだった。

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